ほら、出窓にいこう。
遊びが乗らないと、ぼくは北側の部屋の出窓にピノ子をいざなう。夕方は出窓デート。うちは三階で周りはみな二階だから意外に見晴らしがいいのです。
今日は月が綺麗だ。朧月夜さ。おいおい隣のアパート見んなよ。覗き見は犯罪だよ。
まあな。上半身はだかの男を見ていたよ。
あのね、飼い主も連帯責任を負う。それより月をごらんよ。朧月をうすら雲がたなびいてるよ。
雲がふんわりと月にかかって輪郭を夕空に滲ませていた。ちょっと水を含ませすぎた絵の具を粗目の画用紙に落とした感じ。餅つき担当のウサギが「そんなに水いれんな!お雑煮のお餅じゃないんだから」と怒りそうな粘り月。頬杖ついて月を見ていたら、出窓の天井が…
あ!
ピカッと光った。見た?ピノ子。
いいや。オマエの言うところの月明かりだろ。
なあんだ、月見てたんだ。飼い主のことオマエ呼ばわりするな。
いいや。月なんか見てない。月より団子だ。
あーあ。
こやつ欠伸をかました。だがぼくは見た。でこぼこしている出窓の天井の隅が光ったのを。外の道からの、クルマのヘッドライトでもなく、切れかけた街灯が最後の水銀を飛ばしたわけでもなく、まるでそこに光源があるかのように、5等星の瞬きのように小さくbut刺すように、ぼくに向かって光った。
ピノ子、これはきっと運命だよ。良いことの前触れだよ。
運の尽きじゃないといいな。
うまいこというな。
ことばのデザイナーと自称している飼い主の猫だからな。
とにかくあれは月の雫さ。運命の光。ついにくる。明日はきっといい日になるさ。
そんなことはどうでもいい。オレはそろそろミャオミャオ鳴くぜ。
すとん。
と、出窓からピノ子は降りてミャオミャオ鳴き出した。さかりの餌タイムだ。よく食べるんだよな…^^; おかげで毛艶ツヤツヤ。
実はピノ子の目から放たれた光線だったのだろうか。
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