デザインのなんたるかを自動車で学んだ。道具でもあり装身具でもある自動車デザインには独創も凡庸も、自由も制約もある。
記事「千葉匠の独断デザイン:N-ONEが“フルチェンジ”できなかったワケとは?」ではデザインの深いところを学べる。ホンダの新型『N-ONE』がフルモデルチェンジでも、なぜエクステリアをほんの少しだけ変えたのか?がテーマ。
結論は「オリジナルのマネには先がない」からだ。
1959年発売の英国のMINIを例にとる。40年間、基本デザインを変えなかった。会社を買収したBMWがオリジナルMINIのデザインを「モダンにして」発売したのが2001年。その次のデザインチェンジは困難だというのが千葉氏の見抜きだった。その通り、モダンMINIのデザインはほぼ変更なく踏襲された。
同じくホンダN-ONEは、1967年発売の『N360』のデザインを「モダンにして」2013年に発売された。MINI同様、オリジナルデザインを磨いたわけだ。それ見て千葉氏はやはり次のモデルチェンジは困難だろうと考えた。案の定、開発チームの新デザインは却下された。過去の名車のデザインを範にして作るデザインは「一度しかできない」からだ。
マネの先にマネはない。オリジナルを超える挑戦しかない。それをいかにするのか?
アウディのデザイナーに就任した和田智氏は、付け入る隙のないアウディの伝統デザインの前にして「人が泳ぐ姿」を盛り込んだという。その結果、ダイナミズムのある造形となった。
どうやって発想したのだろう。自動車は伝承イメージやサイズなど制約の中でデザインされる。つまりオリジナリティは「延長線上にある」。ベースにあるものを知り抜く作業や思考を繰り返したのではないか。そこに「泳ぐ姿」を加えるのは、彼の個性であったのではないか。
デザイナー自身の「体験」「イズム」「生き方」「哲学」、つまり個性がオリジナルを凌駕する武器なのだろう。ということは、デザインする対象と闘うだけでなく、自分の感性や生きざまや体験や世界との関係を常に磨くということだ。まねは実に奥深い。