脱力と規律の体操

僕の朝は体操に始まる。脱力に始まり、規律を経て、脱力に終わる。

この春、コロナ肉がついた人が続出したが、体重維持の基本は摂取管理と運動である。なにを隠そう、いや隠すつもりはなくて、だれも聞いてくれないからこうして書くのだが、不摂生でやせっぽちな僕は毎朝ちゃんと体操をしている。今日は僕の朝の体操習慣を披露したい。

第一部は「野口体操」である。

からだから力を抜く。できるだけ抜く。串刺しのおでんのこんにゃくのごとく、上体をふにゃふにゃしならせ、ぐるりぐるりねじる。膝•肘の関節も脱力。それから上体を前屈みに落として、両手をぶーらぶーらさせて両肩、首筋から意識して力を脱いていく。肩甲骨と首筋に呼吸をいれ、後頭部にも息をいれる。後頭部は目を休ませる感じです。起き上がり肩首を回して、脱力を確かめる。

これを繰り返しながら、瞑想する。昨日はどこまで書けたか、今日はどこから書くのか、何を書くか……ずぅーっと集中する。ふとヒントや解が降りてくれば、机の上のノートに書き留める。これが「脱力」である。5分、長くて10分。

それが終わったら「規律」へ移る。脱力から規律へ180度転換。第二部は「自衛隊体操」である。これがきつい。たった5分の体操だが筋肉痛はまちがいない。ラジオ体操の数倍の威力がある。

公式サイトの自衛官の姿はひたすら美しい…

自衛隊体操は21個の体操で構成されているが、どれがむつかしいかといえば、どれもむつかしい。最初は姿も速度もまったくついていけなかった。からだが硬いので屈伸や足上げもつらい。リズム感がないのでずれる。跳躍は階下の婆さんに苦情をいわれる。ピシっときまりたい統制運動。こんなにうまく決まればねえ。

統制運動 自衛隊のTwitterサイトより引用

そもそも、自衛隊体操は何のためにやるのか?Wikipediaには「自衛官の基礎体力の向上を目的に発案された。人間の動きの限界近くまで動かすことにより、効果を発揮する」とある。なんのために?おそらくは「戦争の準備体操」だろう。

自衛隊体操の起源まではわからなかったが、もっと以前、日本に初めて体操が取り入れられた歴史はわかった。

日本の体操の起源は、1868年に軍隊に採用されたドイツ体操である。「ドイツ体操術」と呼ばれたもので、開発したドイツでは「運動を愛国心と結びつける」ことが目的だった。やはり戦争のためである。当時の日本は明治時代、富国強兵である。医学でもドイツ式を採用したように、日本はドイツが優勢だった。

一方、民間の学校や市民はどんな体操をしたか。戦前の日本で普及したのはスウェーデン体操である。国民の体力養成のために、解剖学、生理学、物理学などの学問をベースに、総合的な見地から開発された体操である。それがラジオ体操への流れになったようだ。

つまり軍隊の体操は「精神の規律」、民間の体操は「体力づくり」といえそうだ。そこまで考えたとき、ふと野口体操に思いがいたった。野口体操を考案した体操家の野口三千三は、戦後、自己否定から始まった

敗戦後はすべての価値観がくつがえされたといわれるが、彼の専門である体操もしかり。戦争中の野口は師範学校で「建国体操」を教えていた。極寒の日に生徒も自分もシャツと短パンになって、ピッ、ピッ、ビシーっと規律正しい体操を教えた。ところが戦争である。昭和二十年、野口は東京市淀橋区の、何もない焼け野原に立ち尽くした。「へなへなへな…となった」。こころが空白で教えるどころではなくなった。

だが心機一転、独自に体操を考えだした。歩くと足はどう大地を蹴るのか、力はどう入り抜けるか、腕はどう振るのか、からだはどうあると気持ちがいいのか、ひたすら考えた。やがて引力と一体になるというヨガにも通じる体操哲学に着地していく。コンニャクのような野口の体操は、体を開き、心を開く体操となった。野口体操は軍隊式体操へのアンチテーゼもあったのではないだろうか。

さて僕は、自衛隊体操のあとは腹筋運動だ。近代五種ならぬ腹筋五種を組み合わせている。シメは野口体操の「真(まこと)の動き」。仰向けになって、両足をあげて、ひざを頭の上までもってくる。やわらかいひとはスネが床につくらしい。ゆらゆらゆする。なにも考えない。ただエネルギーをためる。

脱力だけでは僕のような人間はダメになる。規律が必要である。だが規律ばかりでは息ができない。脱力から規律へ、そして脱力へー無意識のうちに構成した僕の体操は、規律と創造の世界を行き来し、深い意味で理にかなっているのかもしれない。などと思ったり(^^)

かざりさん、毎朝ありがとう。

体操にはかわゆさもほしい……(元自衛官タレントのかざりさんの自衛隊体操も学んでいます)

※野口体操のくだりは『野口体操入門』羽島操著を参考にした。

コメントを残す

WordPress.com Blog.

ページ先頭へ ↑