シンプルはひとりじめにできる。

スティーブ・ジョブズの自伝が出た後、「“にわかジョブズ狂”のオヤジたちが書く感想なんて、読みたくないぜ」というツィートを見た。自戒した。だから自伝を引用して感想なんてよそうと心に誓った。はずなのに、けっこうしちゃってすみません(笑)。

とくに第22章 DESIGN PRINCIPLES(デザイン原則)のくだりはぐっときた。デザイナーJony Ive氏(ジョナサン・アイブ)はiMac、PowerBook G4、MacBook、MacBook Pro、iPod、iPhoneのデザイン担当。その彼がインタビューにこう答えている。

Why do we assume that simple is good? Because with physical products, we have to feel we can dominate them. As you bring order to complexty, you find a way to make the product defer you. Simplicity isn’t just a visual style. It’s not just minimalism or the absence of clutter. 『STEVE JOBS』P.343

なぜシンプルはいいと思うのだろうか?なぜならモノとしての製品をひとりじめできると感じるからだ。複雑なモノになると、製品を自分に従わせる方法を見つけようとする。シンプルであることはビジュアル面のスタイルに限らない。単なるミニマリズムでもないし、ガラクタが無いってことだけもない

シンプルはひとりじめにできる。

ぼくはこのひと言に永遠を感じた。シンプルはユーザーと一体化の鍵なのだ。持ち運べる透明のiMac、クリックホイールのiPod、余計なキーがないMacBook、表面にボタンがひとつ、側面に3つだけのiPhone。これらはみな“シンプルだから最初から自分のもの”なのだ。

ごちゃごちゃしているモノは、使いこなそうとするうちに愛着が吹っ飛ぶ。代表的なのは日本の家電メーカーのTVリモコンだ。携帯の分厚いマニュアル本もひどい。高機能なオーブンや洗濯機も「使いこなすために征服」しないとならない。それがユーザーとモノの愛着のギャップを広げていく。

シンプルはパッケージから始まる。ジョブズとアイブはパッケージングを大切にした。この小さい箱にすべてが収まっているの?というiPhoneのケース。3から4への縮小も見事。デザインだけでなく説明(書)や包装にムダがない。だから開けるときから「自分のモノ」「自分の体験」が始まっている。

  初代iMac:フロントにトレイがある。

ジョブズが激怒したiMacのエピソードも楽しい。販売の直前に、彼は自分の嫌うデザインに気づいた。フロントのCDローディングが“トレイ方式”だった。ボタンを押すとCDを乗せるテーブルが前に出てくるタイプだ。

「このボタンは何だ」ジョブズ。
「これはCDのトレイを出すボタンで…」
「オレはスロットローディングと言ったはずだ!変更できなければ発売延期だ!」と激怒した。

言った言わないの世界だった。しかも1998年当時、まだCDをスリットに入れるスロットローディングは一般的でなかった。もちろんコストも高かった。彼は次のバージョンアップでスロット方式を導入させることで譲歩した(わずか9ヶ月後だが)。そこで技術役員から言われた。

「スロット方式は進歩が遅く、書き込み方式への対応が遅れますがそれでもいいですか?」
「かまわない」とジョブズ。

役員の指摘通り、MacのCD-RWやスーパードライブ対応は他社の周回遅れになった。ところが災い転じて福となす。CD対応への遅れ取りもどすため、iTunesという「CDが不要な」音楽販売ウェブサイトの発想につながった。

シンプルにすると、違う次元で物事を見るきっかけが生まれる。

身の回りをシンプルにしよう。服装もシンプルにしよう。話し方もプレゼンテーションもシンプルにしよう。仕事の仕方全体をシンプルにしよう。ジョブズのスタイルは一貫している。

書くことも同じだ。シンプルに書こう。ひとりじめしてもらうために。

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