わたしにはおしんが足りない。

仕事が立て込んでとても追い詰められた。9万を超える文字起こしのせいだ。しかも別の取材が入り、その次の取材もあるし、別の仕事も入った。ああ、わたしはどこでトランスジェンダーの文を書けばいいのか。それよりも心のスイッチが落ちた

二晩続けて悪夢を見た。最初はどこか、だだっ広い土地をさまよって、鞄を地面に置いた。すると鞄が沈んでいくのだ。それは沼だった。鞄はもう取れなくなった。次の日はだれかに羽交い締めにされて動けない!思い切り手足をばたばたさせたら、一緒に寝ていた猫をつかんでいた。ごめん…

数日、体はぼろぼろ、心は落ちて、無気力になった。もうだめだ、あたしはもうだめだ。部屋のなかで暴れ、ふとんの中で叫びまくった。

そんなある日の明け方、仕事で読んだ本のあるページを思い出した。橋田壽賀子氏の『安楽死で死なせてください』という本である。『おしん』の一シーンを撮影する写真がある。橋田さんが戦争で山形に疎開した時、材木問屋の婦人から聞いた話がある。昔お金がなくて、最上川を下る船に乗れなかった。そこで材木を組んで筏を作って、川を下ったというのだ。そのエピソードは、そのまま『おしん』に使われた。それを思い出して、ふとんの中で思った。

わたしにはおしんが足りない。

おしんはわたしなんかよりもっとつらかったのだ、と自分にムチを入れた。すると、トランスジェンダーの文でもおしんが足りないことがわかった。

おしんはどんなに苦しくても努力して、どんなに貧乏でもめげずにがんばった。その姿が視聴者の共感を得たのだ。わたしの書いている文の主人公にはおしんが足りない。おしんのようにいじめられても、蹴飛ばされても、生き抜くという負けん気が足りない。それをもっと書き込まなければ読者の共感を得られない。

それで正気を取り戻した。とはいえまだ忙しい。昨日、トランスジェンダーになるため通院しているクリニックで看護師さんにそんな愚痴をした。すると看護師さんはこう言ったのだ。

あたし、苦しくなるとアフリカの水を思い出すんです

アフリカでは蛇口を回して水など出ない。水は汲みにいってカメに貯める。非常に不衛生だし、面倒だし、辛い作業だ。それに比べればわたしなんて、めっちゃ恵まれていると思うようにしているという。

そうか、アフリカでトランスジェンダーなんてできやしないのだ(たぶん)。まだわたしには苦労は足りない。もっと苦労しなきゃいけないのだ。肩こりも眼痛も頭痛も、とてもつらいけど…^^;

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