ひとは環境意識からパン屋になるだろうか?

これからの時代、「大きくなったら何になろうか」と思う子どもたちは、きっとこの本のテーマを考える。

賞味期限や食品ロス問題に切り込んできた著者井出留美さんが、子ども向けの本を書いたというので一読した。大上段からの評論ではなく、現場で本質を感知して、くらしのなかから環境意識を高めていくその姿勢を、子どもたちにどう伝えるのかというのが関心事項である。

捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』の主人公は、広島にあるブーランジェリー•ドリアンの店主の田村陽至さん、かれはパン屋のせがれに生まれたが、ストレートにパン屋を継いだわけではない。したいことがわからなくて、悩んで日本を放浪して、自然ガイドをしてモンゴルまで行った。モンゴルで「食とはいのちを食べること」と気づいて、吹っ切れた。帰国後、かれのパンとの格闘が始まる。

青年の悩みをパーソナルなものとしてだけ描くのではなく、パン屋をめぐる商業問題や労働問題、また食をとりまく環境問題をからめての展開がたくみである……

感想文の続きはAmazonの本書のページへ。本書を読みながら考えたことがある。

ライターのはしくれとして、自分ならこのパン屋の主人公をどう書くか?。私ならきっと、もっと田村さんの感情や行動を中心にしたに違いない。だが井出さんは、主人公のことを描きながら、氏の関心事項である食品ロス問題や環境問題を外さない。むしろパン屋さんの悩み=社会問題とつながっていた、という洞察をしている。

そこが素晴らしいところで、私は嫉妬した…(笑)

人物をどう描くか、描く上でどういうスタンスをとるか、どういう距離をたもつか。それは書き手自身の伝えたいことの有無や、その強弱に関わっている。伝えることが(あまり)なければ、その人物一辺倒になる。伝えることが(たくさん)あれば、人物論や評論に近づいていく。

井出さんの巧みなところは、物語と人物論の中心に「自分の視点」を置いて、あたかもシーソーが支点でギッタンバッコンするように両方を描きながら、自身のメッセージを盛り込み、読者に「自分はどうすべきか」考えさせるところだ。それができるのは氏が「作家的ポジション」をもっているからである。

人を描きながら、自分の思い伝える。私はまだそういったポジションが持てていない。それができるような書き手になりたいと思いました。

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