愛の進化

ヴァルーナ』を読む。ジュリアン•グリーンの最高傑作のひとつと確信しつつも、読了直後は何のことを書いているか森の中。夜、眠りながら考えてだんだんわかってきた。愛の成長物語だった。

グリーンの1940年作品は三部作で構成。「ホエル」「エレーヌ」「ジャンヌ」がその三つで、「一個の鎖の物語」または「生まれ変わりの物語」である。

ホエルは6世紀頃の北欧州での冒険譚で、どこかイプセンの「ペール•ギュント」を思い出させる。ホエルという男の子が海岸で鎖を拾う。その鎖は持ち手に輪廻転生を思い起こさせる力を持つ。過去と未来がつながる。だがそれを紛失してしまうことからホエルは漂流し、遭うべき運命の女モルガーヌとタイミングを逃して年老いてから出会い、非業の死を遂げる。

エレーヌは16世紀頃のフランスのヴァロア王朝期が舞台で、最愛の妻を娘の出産直後に亡くした夫の歪んだ愛の物語である。美しい母と生写しの娘は、亡くなった母の姉に育てられる。姉は義兄にあたるベルトランを愛している。残念なことに妹には似ていない醜女である。ベルトランは亡妻を思うあまり、娘を妻にする魔術のとりこになる。娘は愛憎劇のさなかに真の恋のいとぐちを得る。

ジャンヌは20世紀の現代で、小説家志望の内省的な女性である。一作目が少々売れたのがアダになって、2作目が書けずに苦しむ。「わたしは、苦しいときには現在に生きすぎ、幸せなときには未来に生きすぎる」と嘆く。恋人のルイが救済である。かれはジャンヌが打ち込んで書いた原稿を「本物ではない」と破り捨てる。真の小説、つまり自分の分身を書きなさいというように導き手になるのだ。ふたりは結婚して静かな老後をおくる。

贖罪の3つの物語は何をいいたいのだろうか?

澁澤龍彦がこの作品について「つまるところこの小説には1組の男女しか出てこない。ホエル=ベルトラン=ルイ、モルガーヌ=エレーヌ=ジャンヌの男女1組である」と書いていたのを読んで、ようやくわかった。鎖は愛の強さを試すもの。三代の物語、最初はおれおれの自意識過剰の男、二つ目は思い出を愛する男、三つ目は相方のことを考え、思いやりで愛を高める男女。

愛することの進化を描いた物語だった。

ではぼく自身は?まさにホエルとベルトランだった。ルイにはまだなれていない。生涯なれないようにも思える。それに気づいたことが進化だと思うしかない。

愛は散りぬるを


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