あるものでまかなうのは、満ち足りても薄幸な私たちへの大切なメッセージである。
食品ロス問題ジャーナリストの井出瑠美さんが『あるものでまかなう生活』を上梓された(日経BP 2020年10月)。さっそくめくってみると、捨てない幸せ、環境に正しい暮らし方が満載である。
私たちはなぜあるのに買い、買っては捨てるのだろうか。生産者はなぜあるのにつくり、売るのだろうか。「ある」と「ない」はアンバランスではなかろうか。といった問題意識を広げた上で、著者は、食分野では賞味期限や無駄をなくすことで「あるものでまかなう」、暮らし分野ではストックや包装や使わないものを使って「あるものでまかなう」を、非常に広範に緻密に丁寧に提示している。
どれも参考になるし、今日からできることが多いが、僕も実践していて膝を打ったのは、「歩ける範囲で暮らす」である。田舎にいけばいくほどラーメン一杯に車を走らせる暮らしをしている。CO2は出すし、ダイエットにも悪いし、事故を起こすかもしれない。車がない昔はみんな歩いたんだよね?僕は歩ける範囲で買い物をするし、遠くなら自転車を使う。健康にもいいし、日経歩数番でAmazonポイントももらえる。
「冷蔵庫の中がゼロになってから買い物に行く」のもいい。よくやっちまうのが買いすぎで廃棄だ。僕も先日キャベツでやっちまった。小さめの冷蔵庫でちょこちょこ買いをしてるのだが……。まして共働きで時間がない、日曜買い出しの家族だったら廃棄量もばかにならないだろう。コツはリアルな献立(いつ何を食べる)をベースにすることだろう。
「良い物を少量買う」のも心がけたい。貧乏性なので安売りのデカイ醤油を買ってしまう。美味しくないし使い方も荒くなるのでやめた。卵も1パック99円はやめた。卵かけご飯する身なので、余りに人工色の卵はいかんのよ。バーゲンに釣られるな、安いのは待て。少量で丁寧に使うのがプリンシプル。
以上のように、あるものや手持ちのもので暮らすヒントを本書からいっぱいもらおう。
さて読み進めると、人の心の中も「あるものでまかなう」のが大切であると思い出してきた。
たとえば身の丈を越える恋人がほしいとか、即席で金持ちになりたいとか、優秀な頭脳が欲しいとか、無い物ねだりばかりしてないだろうか。足りない足りないと思っていると、心のバランスを崩す。自分は自分ではないか。あれやってもこれやってもだめ……と満たされない思いをつのらせると自殺につながるものだ。
そこで、「これまでにやってきたことや思い出を再点検」してみよう。こんなこともやってきた、こういう知識や体験や技があると気づければ、そういったあるもの同士をコーディネートするだけで新しいものになる。あるいはそこに何かを少し足せば、才能が開くかもしれない。
また、カラの冷蔵庫の話のように、「心にあるものを出し切ってしまう」のも大切だ。仕事ごとに知識や技をどーんと出し切る。無くなったら困るなんて思わずに出しちまう。出せばスッキリするし、そこに新しいものを足していける。心の中のクローゼットがいっぱいだったら、新しいものだって入らないでしょう。
心に中をあるものでまかなうのは「成長しない、背伸びをしない」という意味ではない。今ある才能や知識や技でまかなうということは、やることを絞り込んで真の力を出す、という意味でも大切なのだ。
食も暮らしも心もあるものでまかなう。あるものでまかなうと物も人も自分も大切にしだす。それが生き方を新しくする秘訣である。
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