不思議なコミュニケーション体験

インタビュアーとして不思議な経験をしたのでお裾分けしたい。

インタビューというものを長年してきたが、決して上手ではない。下手なので相手次第になってしまう。相手がフレンドリーな人ならフレンドリーなインタビューになり、ぶっきらぼうならぶっきらぼうなインタビューになり、である。プロフェッショナルなインタビュアーは、だれが相手であっても話させるものだとすれば、僕はその対極にいる。

思い起こせばもっとも緊張したインタビューは俳優の近藤正臣だった。大俳優には圧倒的な威厳があり、絶対的に場を支配する力があった。舞台や撮影で鍛えられたものなのだろう。それにのまれた僕はただ冷や汗をかくムシケラであった。インタビューを知らない一般人は、もっとあれを聞け、これを聞けというが、そういうもんじゃない。インタビューに上下関係があればいいものにはならない。
では良いインタビューとはどんなものか。

それは、間をもち、場をつくること。

その場に、聞く人と答える人が乗って、共同で答えをつくっていく。聞く側に質問なり態度なり知識なりが充実していることが必要であり、答える側には協力する姿勢と、経験や教訓を伝える対話力が必要である。それが合致して良いインタビューとなる。ところが先日のインタビューはそれを超えた不思議な体験をした。

それは、録音ボタンを押し忘れたことだ。

インタビューでは、録音機をテーブルに置いて録音をする。手元でメモもとるがそれは追加質問のためでもある。たいていは「押して始まる」のだが、その医師とでは、録音機を電源を入れて目の前においてスタンバイさせたのに、なぜか録音ボタン押すのを忘れた。思い出してあわてて押したのは、医師がおいたちや少年時代の話しをし出してから5分後だった。

それは、僕だけではなかった。

同行で隣に座るA女史も、録音機を目の前に出していたのに、僕が押すのをみて、あっ!と思って押した。さらにメインのインタビューアーB女史は、カバンから録音機を出すことさえ忘れた(笑)

こんなことは初めてだ。いったい何が起きたのか?

文字起こしをしながら思い出すと、この医師は本題にスッと入ってきていた。たいていは時候の挨拶やインタビューの趣旨や掲載上の注意などがあって、それからさて、となるが、そういうのがほとんど取っ払われて、双方がスッとインタビューの中に入っていた。バリアとなるものがない。初対面だがずっと知己であるような感じで…

この医師は、患者にもスッと入っているのだろう。

患者やその家族と話すとき、時候の挨拶や具合はどう?と聞く医師もいる。それは優しいひとだ。だがこの医師はごく自然に、すぐに本題に入っているのではないか。医師はがんの外科医なので、診断を伝え、手術の説明をする。インフォームドコンセントといった「伝えましたよ」「言ったからね」という形式的なコミュニケーションではなく、患者の中にスッと入って話しているのではないだろうか。ここはもう少し突っ込んでいきたい。

なぜスッと入れるか理由は思い当たった。この人が剣道5段だからだ。剣道の間合いなのである。

打ち合うものが剣道というのはせいぜい二段三段くらいまでで、それから上はだんだんと攻撃だけではなく、相手が攻撃できない「」を発することが重要になるという。立ち会っただけで「まいった」といわせる気合である。最高位の八段や九段となると、相手が攻撃できない気の発し合戦になるという。柔道なら自然体ともいうのだろうか。

突かれるスキがないということは、相手を読み切っている、ということでもある。だから相手を手のひらに乗せることができる。この医師が話すと、末期がんの患者のなかに入って、手術を希望にした共同体のような意識が形成されるのではないだろうか。

相手のなかに入る」というのは、一般の我々でも、あらゆるシーンで大切である。顧客との会話でも、愛する人との理解のしあいでも、子供と接する場合でも、適切な間合いをつくって、スッと入れれば、人生の大半の悩みが消えるのではないだろうか。

剣道から考えるヒントをもらったので、この医師が師とした剣士の本を読んでみたい。間合いというものの何かつかんだらまた書きます。

にゃんれき。

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