生物と無生物のあいだにあるもの

めちゃくちゃインスパイアされた。分子生物学のあやふや知識が統合整理された。そして『ドクターの肖像』で医学者や医療者を書く身の上にも参考になった。要するにハマった本、それが『生物と無生物のあいだ』福岡伸一氏著である。

滑りだしがいい。

私はふと大学に入りたての頃、生物学の時間に、教師が問うた言葉を思い出す。人は瞬時に、生物と無生物を見分けるけれど、それは生物の何を見ているのでしょうか。そもそも、生命とは何か、皆さんは定義できますか? (引用元『生物と無生物のあいだ』講談社現代新書 P3)

京都大学の医学生だった福岡氏は、生物学の講義で講師がいったそのことばにハッとして、答えをわくわく待っていたが、細胞やDNA呼吸エネルギーなどのつづく講義の波間のなかに、その重要な問いは水没してしまったという。爾来それを追いかけて、分子生物学の世界に飛び込んだ経歴の持ち主である。

本書で追及される「あいだにあるもの」はもちろんDNAである。「自己複製を行うシステム」二重ラセンにこめられたシンプルで奥深い物語がつづられる。DNAの構造のさらにその先、いかに生命現象が継続されるか?動的平衡というメカニズムにたどりつくまでの、1世紀以上にわたる生命科学分野の進化と、著者自身が研究してきたテーマが、あたかも二重ラセンのようにからまって、物語のように進行する。なんてうまい文章なんだろう。

本書がベストセラーであり、魅力ある名著なのは、単なる理系のわかりやすい本であるからではない。理系にも文系にも読み込めるテーマが、本書全体にプリズムが乱反射するように散らばっているからだ。

本書には四種の読者が浮かんだ。

1、あやふやな分子生物学知識を筋道を立てて理解したいひと
理科系の人も文化系の人もどちらも興味深く読める。そして導火線のように他書を読みたくなる。僕はPCRの発明者キャリー•マリスの自伝(『マリス博士の奇想天外な人生』福岡氏訳)を読み、今度はシュレーディンガーを読む予定だ。

2、分子生物の世界に魅せられて進学するひと
高校生には著者の挑戦の姿が印象的だろう。ただし進む前に考えてほしい。研究は熾烈なレースだ。1000人が同じテーマに進んで、一位はただ一人という苛烈な世界である。

3、なにかしらにインスパイアされたいひと
文化系のひとでクリエイティブなひとなら、本書の生命の描写にビンビンくるはずだ。とくにニューヨークの喧騒と生命の交差は卓見である。非常にインスパイアされた。

4、医療/医学ライター
僕は『ドクターの肖像』でたくさんの科学者を書いてきたが、さすがに当事者であるし、文が上手いので惚れ惚れしました。参考にさせていただきます。

なにしろ僕自身が1+3+4なので、ハマったわけだ。

僕は科学者でないので、生物と無生物のあいだにあるものという問いを発することはないが、そのかわり、生物とはなにか?人生とは何か?人は変われるのか?変われるとすればどう変わるのか?という永遠に続く問いを発することができそうな本である。

あとがきでまた親密さが増した。福岡氏が幼少の頃住んでいた地に、今僕も住んでいるからだ。かれは幼少の頃から生物とは何か、生命とは何かを問うて、アゲハチョウのさなぎをつかって“防空壕で実験”をしていたという。その防空壕の場所は、今では家庭裁判所などが建っている。離婚調停のときよく通いました(^^;)今その場所にはもう防空壕はないが、隣の駅にはまだ防空壕がある。あんな洞穴にはいつくばって、さなぎを見ていた少年が思い起こされた。【おすすめ=★5個】

うちにある100均で買った二重らせんの洗濯ひも
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