オネストな頭

経済学者のジェームズ•M•ブキャナンによれば、世界は4つのグループに分かれる選挙民、政治家、官僚、そして利益集団である。各グループの構成員は皆、社会のシステムから何かを得ようとしている。選挙民以外は専門家集団である。選挙民は日々食うために仕事をしなければならないので、専門のことは専門家集団から知恵を得なければならない。

このブキャナンの選択理論を、いまどきの話である新型コロナウィルスにあてはめてみよう。

政府が雇った専門家集団は、ウイルスの機構や感染、対症療法や予防について専門的な知見を述べる。科学者ではない政治家は専門家のレクチャーを受けて政策を決める。刻々とテレビやネットで伝えられる感染の動向と、政府の日替わり政策に翻弄されるのは選挙民だ。選挙民は自衛を図り、声高に異論をとなえるが恐怖にかられている。そこで虎視淡々と機会をねらうのが利益集団だ。給付金の配布受託や感染防止商品、治療薬やワクチンの開発である。損しているのはだれだろうか。

なあるほど、と思ったあなた、わたしはブキャナンの経済理論を読んだわけではなく、『マリス博士の奇想天外な人生』という自伝のなかにこの理論の紹介があったまでだ。マリス博士とは今話題のPCRを発明してノーベル賞を受賞したキャリー•マリス氏であるが、科学者たちがいかに実証できない壮大なことを語り、税金をつかって生きているか「科学をかたるひとびと」という章で正直に語っている。

2019年に逝去したマリス氏は、奇想天外な科学者であった。

サーファーでヤクをやり、超常現象と科学を結びつけ、女好きで3度結婚し(4度か?)、日本の皇室のパーティに招待されたときに、美智子皇后に「かわいこちゃん」と呼びかけた。ホンマに?というエピソード満載の痛快傑作な本をしゃぶるように読んでいるが、この自伝を翻訳した福岡伸一氏のインタビューがまた傑作である。

彼(マリス)へのインタビューの中で、「あなたを形容する言葉として、エキセントリック、奇行、不遜などいろいろなものがあるのはよくご存じだと思いますが、自身を形容するのに最もぴったりとした言葉があるとすればなんでしょう?」と問うた私に対し、マリスは即座にこう語った。
それはオネストだね。わたしはオネスト•サイエンティストだよ
(『生物と無生物のあいだ』福岡伸一著 P94)

オネスト!正直なのか!

これを読んで即座にブキャナンのグループには「第5のグループ」があるのをわたしは発見した。それは「正直者」である。

又の名は「社会のアウトサイダー」、しがらみや利害関係から逃れ、自由に真実を言ってのける。まわりの人びとはまゆをひそめる。そういう突き抜けた人になってみたい。ノーベル賞をとれない凡人にはムリなのだろうか。

さらにわかった。わたしが書きたいのは、その「第5グループに入る」ことだ。脱俗して自由、正直、勇気をもつ。今書いているのもそういう話である。次に書きたいのもそういう話だ。わたしはそういう人びとに興味がある。言いかたを変えればこうだ。

ひとはいかに生まれ変われるか?

行いを改める、習慣を変える、思想信条を焼き直す、旅に出る、仕事を変える、SNSをやめる、化粧を変える、閃きで発明する……いろいろ方法がある。そのなかでもかんたんで、しかも効果がある方法を見つけた。それはー

坊主になることだ。

理髪店でしょぼしょぼと短髪にしていたのだが、このさい生まれ変わろうと坊主になった。やや専門的になるが長さは1ミリである。1ミリであればスキンヘッドではなく、そのスジのひととは一線を画せる。しかし相当に短いので瀬戸内寂聴の世界に近い。つまり「突き抜け」である。髪の毛は悩みを背負っている。それをすっぱりさっぱりすれば、すっぱりさっぱり生きることができるのだ。

じっさい、突き抜けてきた。こだわりがなくなってきた。あっけらかーんと、喜びや欲望に向かって生きようと思えてきた。書くべきことが鮮明になった。坊主でオネストになれる。社会やひとびとを鳥瞰できる第5グループの眼をもてるのだ。たぶん……

今日は8月31日、夏休みの宿題をようやく終えた気分です。

理髪店でもセルフでもいい。かくいうわたしは出家にはおよばないが、いつか寂聴さんの講和を聞きに行きたい。

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