モンバサからナイロビまで。聖路加から長崎まで。

今月号の有吉先生、むっちゃおもろかったです。
いままでで最高じゃないですか?

という声を大阪大学教授の仲野徹先生からいただいているのが、ドクターズマガジン「ドクターの肖像」、2020年6月号の有吉紅也先生の物語である。

長崎大学熱帯医学研究所の熱き教授の物語は、当時医学部4年生の氏が、ケニアの港町モンバサから首都ナイロビまで500kmを歩こうと決めたときに始まる。起伏が乏しく、サバンナやブッシュや低い丘ばかりの簡易舗装の一本道は、国立公園の中をひたすらまっすぐ続く。その間ホテルはほとんどない。3つだけ覚えたスワヒリ語ー「水をください、食べ物をください、泊めてください」ーで、現地の住民をたよった。

夜は人が家という名の檻に入る。なぜなら野生の動物に襲われるからだ。もちろん病気も危険だ。有吉青年もナイロビまであと60kmのところで体調をくずした。ある村に着いた途端、倒れて介抱された。ダニが原因だったらしい。ナイロビに着いて、前人未到の快挙だと思ったら、なんとその1年前、ある日本人が同じ道をリヤカーを引いて歩いたという。しょぼん…でもなかったらしいけれども。

ともあれ、かれは500kmを歩き通した。それ自体Greatなことだが、この旅にはそれ以上のGreatがある。

有吉青年はなぜ歩き出したのか?何を考えていたのか?青年はバイトでお金を貯め、休学届けをだし、哲学書をかかえて、世界に旅に出た。ひたすら考えていた。いかに生きるべきか、なにをするべきかを。青春を思い出せる人なら察しがつく、あの根源的な問いだ。必ずしもすべての人が見つけられるとはかぎらない。

有吉青年は、あるケニア人家族の食卓で答えを発見した。その答えをここでばらすヤボはしないけれども、ヒントだけ書いておこう。かれはひとのなかに入ろうとした。だから見つけられたのだ、と。

この前半の旅のクライマックスをいかに書くか?ぼくは悩むことなくまっすぐに書けた。というのも、ぼく自身が有吉先生と同じ体験ー大学を1年休学し世界を放浪するーをしたので、先生の気持ちがよくわかったからだ。

というと、まったく頭(ず)が高い。答えを見つけた先生とぼくは真逆で、ぼくはそれを見つけられなかった。だから旅を終えて帰国したのちも、変わることができなかった。父からは言葉(お前は旅をしてから悪くなった)を投げられ、どこか母とも打ち解けられなかった。ぼくも父や母の気持ちがわからなかった。そうしたできそこないのまま今日に至る、という点が先生とは決定的に違う。

だが今回、有吉先生の物語を書いて、目が覚めてきた。これじゃあいかん、お先は短いとはいえ、自分と正直に向き合おうと心を入れ替えた。すると変化があった。書き終えた数週間後、何年も前に死んだ父や母の気持ちが「降りてきた」。自分が「扱いにくい」人間だった。相手ではなかった。なあんだ!そんなことかと笑ってしまったが、それはコペルニクス的転回だった。それだけのことがわかるまでに非常に長い年月を要してしまった。

余談だが、モンバサからナイロビまで歩いたリヤカーマンは、永瀬忠志氏、世界4万キロを歩いた冒険家である。ぼくがオーストラリアを旅していた時、現地の日本人から、豪州大陸を東から西までリヤカーを引いて歩いた男がいる、と聞いて驚愕した。ぼくはクルマで豪州を一周してヘトヘトだったので、あの乾いた地を4200kmも歩くことがいかにクレイジーかよくわかった。

さて、有吉先生は感染症が専門で、ロンドンやアフリカで感染症やHIVの発症メカニズム、ウイルス量の研究で大きな成果をあげた。今回のコロナウイルス感染症対策でもロンドンやフィリピンに飛び、長崎ではコスタ•アトランチカのクルーズ船にも対応した(幸い陽性149人は重症化せず、今月末で出港予定)。感染症対策は厳重に、だが熱い思いは胸を解放して吸い込もう。

有吉先生の物語は編集部で購入できる。ぼくの手元にも2-3冊ある。ぜひ読んでいただきたいのは、今号が最後になるかもしれないからだ。

今号でドクターズマガジンは休刊する。理由はコロナである。取材が困難なだけでなく、医療経済は大幅な縮小が避けられない。病院経営は厳冬を迎える。PRは限りなく縮小だ。これまで85名ほどの名医を書き切ってきたが、最後になるかもしれない号で、「いままで最高じゃないですか?」という感想をもらえたことはありがたい。2013年4月号、聖路加国際病院の心臓外科医川副浩平氏から書き始めて、長崎の有吉先生まで、北は札幌、本州津々浦々、四国も九州も沖縄まで歩いた。見つけたものはなんだろう。

簡潔にいえば、文でひとの役に立つこと、だろうか。

近所の焼肉屋の駐車場はバラ園である。休店してきた当店もようやく開業だ。


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