アランの『幸福論』で誓う。

夢を見た。前に勤めていた会社に営業に行く。相手は営業部長である。その会社に何かを売るために部長や課長と面談しているのだが、ほんとうは別に担当者がいる。ところがその担当者の名前が思い出せない。顔は思い出せるのに。だが、ぼくは少しも焦ることなく、堂々と部課長とおしゃべりしながら、名前を思い出そうとしているところで目が覚めた。

ポジティブにボケる夢をみたのは、アランの『幸福論』を読んで寝たせいだろう。

フランスの哲学者による100年読み継がれてきた本書は、こむつかしい哲学論でも読み飛ばせる雑感でもない。強いていえば処世術の本だろうか。その核心は「知覚と意志と行動をもって、情念に立ち向かう」という闘うコンセプトにある。情念とは恐怖、悲しみ、怒り、倦怠といった人間の負の心持ちである。その情念をつくるのは、病気や苦い体験で蝕まれている肉体である。だからアランは体操せよという。

本当の体操とは、ギリシア人が理解したように、肉体の運動に対する正しい理性の支配のことだ。【2:刺激】

体が強張ったり、神経が暴れたりすることで、ふさぎこみ抑鬱となる。それは体調をよくすれば消える。「からだが開かれるとこころが開く」という野口三千三氏の野口体操に通じる。だが情念というものはなかなか手強い。

情念に対しては、わたしたちはなすすべがない。(中略)自分で放ったすべての矢が自分にもどってくる。自分こそ自分の敵なのだ。【6:情念】

そう、自分が敵だ。過去を繰り返しほじるのも、未来を繰り返し夢想するのも自分。その迷路でさまよう。やめようと思ってもいつのまにかやっている。そこでアランはこう諭す。

「遠くを見よ」。抑うつ病の人は、ほとんどつねに、読みすぎる人である。(中略)自分の意志を自分の中に差し向けたのでは、なにもかもがうまくゆかなくなって、ついには自分の息の根をしめるようになる。自分のことを考えるな。遠くを見よ。【51:遠くを見よ】

アランは93篇の「語録(プロポ)」でわたしたちのさまざまな悩みに答えてくれる。本書はどうやって読まれるべきだろうか。これは盟友MIMOさんが教えてくれた。

この本は「読むお薬」でした。
今でもつまづくと、この本をめくり直します。

ぼくはつまずいてばかりいるのでめくり直す。もう二度とめくり直したくないくだりはここだ…

美女にふられた恋する男は、他のことを考えようともしない。しかも、過ぎ去った幸福や、不実な女の完璧な美しさ、その裏切りや不義などを思い返す。みずからすすんで自分自身に鞭打つ。(中略)あんな女は、もうみずみずしさのなくなったばかな女さ、とでも自分に言い聞かせることだ。お婆さんになったその女との生活を想像してみることだ。過去の喜びを念入りに吟味してみることだ。自分自身の熱狂をよくよく考えてみることだ。【62:間抜けな人間】

ぼくはつくづく間抜けである。だがこの一文でずいぶんと楽になった。上機嫌でいようと思えるようになった。エーリヒ•フロムの「規律、集中、忍耐」に通じる。ケストナー の「不死身になるのです」に通じる。欧州人は骨太である。

ところで本書のタイトル『幸福論』はちょっとこそばゆい。カバーをつけずに読んでいると「あの人は不幸せなのね…」と囁かれそう。ま、その通りなんだが(笑)タイトルはむしろ「気づき論」「リセット論」「再起動論」ではないだろうかと思える。語録をつまみ食いして読むのもいいが、全体の構成は気づき>リセット>再起動>生きる勇気という流れがある。

つまり幸福とは、そういう意志をもつまでのステップなのだ。だれもをいやな思いにさせない思いやりがその背景である。自分も誰もいやな思いでなければ、幸福を呼びこむ気流がつくれる。最後に誓うべし。

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する。【93:誓うべし】


アランの『幸福論』で誓う。」への2件のフィードバック

  1. 今日も大好きなアランのお話だ、
    とワクワクしながら読み進めていたら、
    なんと盟友になって登場させていただいており、
    さらにお得感増し増しの私です。笑

    まさに、
    気づき>リセット>再起動>生きる勇気という流れ

    郷さんの分析、素晴らしすぎます。
    また今夜、読み直そうと思います。

  2. コメントありがとうございます!mimoさんの言葉(つまずくと読み返す)がずっとこころに残っていて、その通りだなと思います。まだまだ読み深めないといかんですが、なんとかもうすこしでいいので幸せになりたいです…^^

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