野口体操で「ひとのおもさ」を知る。

鬼才野口三千三氏(関連)の本を4冊読んだ。雑誌論文も読んだ。その中ではこの『野口体操 おもさに貞く』が一番わかりやすい。

ほかの3冊の本は『からだに貞く』『原初生命体としての人間』、弟子の羽島操氏の『野口体操入門』である。それぞれ野口氏が発明した体操を中核に絡みあっている。おかげで鬼才への理解がかなり進み、故人のことをひそかに「我が師」と呼んでいる。その理由はいくつかあるが、まず「心を開く体操を教えてくれた」ことだ。

その体操とはなにか?本書『おもさに貞く』の中心テーマは「重さ」である。野口氏は体操の主動力を「自分のからだの重さ」だと考える。重さをいかに地球に向かって「落とすか」だという。

地球の中心に向かって働く「落ちる力」と、その反作用の「弾みあがる力」がそれ(自分のからだの重さ)である。筋肉の役割は、このエネルギーを如何に有効に働くようにするかにある。すなわち、からだの重さを新しく落とすきっかけをつくること、その落下するからだの重さをどのように地球に乗せるかということ、その反作用の弾み上がりのエネルギーをどのように調整し利用するかということにある。(「おもさに貞く」P218)

上体を前に落としてブラブラさせるのが野口体操の基本であり最重要である。この体操をようやく(自己流だが)正しくできるようになった。

この体操の前段として、体を側方にぶらさげてほぐす、という体操が紹介されている。これを左、右とすると肩から先の腕の力が抜きやすくなる。

ただ、この上体を落とす野口体操を数週間ブラブラしていると、肩の力の抜き方はわかってくる。力を抜きにくいのは、頸(くび)から上の頭である。これがなかなかつかめなかったが、この写真の女子の顔を見て「!」と思った。顔の力を抜けばいいのだ。

目、口、舌、喉の力を抜いていく。すると頸から力が抜けていき、頭がぶらんぶらんと落ちていく。ああ!この感じ!落とした腕と頭を揺らしてやって、起き上がれば、なんともいえない快感に包まれる。

そして、それが心の解放につながっていく。このあたりを野口氏はこう書いている。

動きの鍵は、自分のからだの重さを新しく地球に乗せる、その乗せ方いかんにある。(同書 P218)

重力のあるがままに乗せてやればいい。その自然体のコツをつかめばいいのである。それをつかむために野口氏はいろんな体操を考え、おもさをコトバで分解していった。体操をつうじて人を理解し、回復させようとしてきた思想人でもある。

彼はボディビルも批判しているが、それはただ筋肉をつけるという、からだの意識化を目的にすることに異議を唱えたのだ。同じように、からだを分析して、体系化して、鍛えるということにも疑問を呈していた。運動を目的とするアスリートならともかく、普通に生きる人がきついジムワークやダイエットをして「からだだけ」を変えると「心がおいてきぼりになる」という。逆に、なにもしないで硬直するばかりのひきこもりもいけない。僕はこのあたりに心が不調になる原因が潜んでいると思う。

もうひとつ、彼の興味深い主張をあげよう。野口氏は健康について、人は何らかの病気をもっているとする「人間中途半端説」を唱える。

「すべての人間は身体障害者であり、すべての人間は精神障害者であり、すべての人間は老人である。したがって、すべての人間は健康ではなく病人である」ということになる。(同書P85)

完璧な健康などない。つまり風邪をひいた、頭痛がする、肩こりがある、免疫が弱い、内臓に問題がある、皮膚が弱い、老化で認知や気分にムラがある…だれしも何か問題を持っている。すべての人は病人であり、そのとき病が小さい人が「健常者」であるに過ぎない。

この考えは素晴らしい。この考えを誰もが持てば、津久井やまゆり園で障害者を殺した植松聖被告は存在し得ないからだ。人間の価値を正しく見ることも野口体操の効用なのである。

コロナ感染症で騒ぐ世の中だが、春はもうそこまできている。風邪コロナウイルスは飛んでいく。なにしろ地面では春の芽吹きが出て、花を咲かせた草が青々としている。その上に素足を乗せてみよう。地球のいのちが感じられる。自分のおもさも地球のおもさも感じられる。自分以外の人のおもさという尊さもわかる。


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