僕は本屋が好きだ。本屋で育てられた。最近はネットやメルカリで買って、めっきり本屋に立ち寄ることが減っているが、この無人本屋には行ってみたい。(「東京・三鷹の無人本屋さんへ行ってみた」)
三鷹にある「BOOK ROAD」という1坪半くらいのセレクト本屋さん。24時間365日年中無休。自分で本を選んで、支払いをガチャに入れると、出てくるカプセルに黄色い袋が入っている。それに本を入れて下げて戸を閉めて帰る。盗まれない工夫はいくつもある。駅から遠いからわざわざ来るとか、人感センサーも監視もあるし、黄色い袋は目立つとか。なるほど〜ばかり。
この店主、中西さん(楽天出身)が作ったさらに興味深い本屋が、吉祥寺の「ブックマンション」。そのスペースでは84人の人に棚を貸して、彼らは好きな本を置いて売る。84の住人(本屋)のいる本屋。これはおもしろい!いつかやろう!と思った。なにしろ店主はマネしてくださいと言う。どうやら本屋という枠を外して、社会改革をしたいのだろう。
本屋への興味は続く。ふと読み出した「13坪の本屋の奇跡」の舞台は大阪にある降祥堂書店である。

70数年前に創業者の二村善明さんが始めた本屋は、(あえていえばその妻が二代目で、三代目の)娘知子さんが継いだ家族経営の本屋である。他店とは違う点は多い。まず「闘士」であることだ。入帳(仕入れ代金の返金)で小書店は不利な立場にあった。送ってくる本の代金払いでタイムラグがあり、資金繰りが常に苦しい。創業者は取次と本の仕入れをめぐって闘った。その結果、ラグは縮まった。
さらに「仕入れたい本が仕入れられない」という闘いがある。「これを売れ」と取次から強制的に本が続々送られてくる。売りたくないヘイト本ばかりだったりする。一方で、売りたい本を注文しても、取次から「おたくは店舗面積が小さいので卸せません」と言われて、仕入れができないのだ。
売れない本屋じゃない。降祥堂は小さな本屋だが、圧倒的な販売力で、小さな店なのに大手書店をしのいで、全国一位で売ったベストセラー本も多々ある。
どうしてそれほど売れるのか?といえば、顧客ニーズを徹底的に品揃えに反映しているからだ。知子さんはどんな本が読みたいか、常にお客さんに聞き耳を立てて聞く。取次から送られるプルーフ(校正刷りの本)は一冊一冊隅々まで読み込む。徹夜で読む。するとこの本はうちのお客さんのだれだれに売れるとわかる。売れると作家を呼んで「作家と読者の集い」、トークショーを開く。これまで250回も開催した。ずば抜けた顧客視点の仕入れと販売、販売促進がある。
僕は迂闊にも、本書を読むまで、この事情(ランク配本という)を知らなかった。町の小さい書店が潰れる本当の理由は、仕入れがままならないことにある。2社あるでっかい取次会社が、強大な権力をもって、大規模書店しか販売先とみなしていない。それゆえに仕入れたくても仕入れられない。仕入れられないと改善の気力が失われる。品揃えはもっと悪くなる。後継ぎもいなくなる。そして潰れる。これが現実だ。「にっくき」は黒船Amazonだけではなかった。
本書は良書である。執筆者は木村元彦氏、その取材力、分析力、公平な視点、構成力と筆力に非常に感銘を受けた。まだまだ自分はあまいと思い知らされた。
僕はもっと歳をとって文章が書けなくなって、まだ生きれそうだったら、小さな本屋をしたい。テーマはひとつ、「人生を変えた本」。今書いている医者の物語(ドクターの肖像)にも、岐路に読んだ本がたくさん出てくる。自我に目覚めたとき読んだ本、人助けに目覚めさせられた本、医者になろうと思った本。医師に限らず、誰にも人生を変えた本があるだろう。それをテーマした小さな本屋を開きたい。ぜひやりたい。そのためには良い文をもっと書かないといけない。今日もがんばります。
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