神におなりなされませ

今シーズンはイニエスタを観に行きたいと思っているが、二の足を踏んでいる。なにしろ彼は欠場しがちだし、J1も第10節を終了したところで、ヴィッセル神戸はわずか3勝、13位と降格圏近辺に沈み、しかもすでに監督も一度交代した。ポドルスキ、ビジャら名選手の混合がアダなのか、あれこれいうフロントにかき乱されているのか……

1990年代のJリーグ創設時を振り返れば、「サッカーの神様」ジーコがプレイング•マネージャーの顔をして鹿島アントラーズを引っ張った。ならばイニエスタにも、フィールドの全権を与えて、神様のように振る舞わせればどうだろう?もちろんジーコの頃よりJリーグは数段進化した。いかにピッチの魔術師イニエスタでも一人では無理なのかもしれない……

神様といえば、ひとつ紹介したい文がある。

山岡荘八氏の大河小説「徳川家康」から、家康が江戸城に移り、城下町をつくりだすころ、風来坊の僧天海と語るエピソードである。川越の寺からふらりと現れた天海は、家康にこう問いかける。

神と仏と何れがお好きでござりましょう

虚をつかれた家康は、自分は浄土宗を信仰し、死んだら極楽浄土に行きたいと答える。天海は「いけませぬなあ」という。殿が天国では一般の民はみな地獄に落ちる、人情がありませぬとピシャリと。ムッとした家康は、ではどうすればいいのか?と反問するとー

神におなりなされませ

天海は仏教には八宗あり、神社は無数にある、家臣には禅を信ずる者や日蓮の信者、キリシタン信者もいる。殿は一つの宗教を求めず、どの信者とも衝突せずに温かく見守る広い心を持たれよ、という。さらに、

「神はあるがままの大自然、仏道はその自然の妙用、自然の調和を知恵の実で拾い上げてみせたもの。根は一つであっても花に千差が生じる理を体得なされ」

神は大自然であり、仏教は神のつくった大自然を利用する法である。前者は天のさだめ、後者は人為といった違いだろう。だから神が咲かせる花は、仏の咲かせる花をおおう、もっとおおきな花弁をもっている、というのだろう。

家康はわかった、自分も禅師から「困難な問題に出会ったら無になれ、そうすれば道が開ける」と教わったと天海にいう。ところがまた天海は「違いまするなあ」と家康を笑って、その肥えた頰をピシャリとするのである。

「もはや殿はその無は超えておわす。これからはその先をお歩きなされ」
「その先とは?」
「先はまた、あるものとあるものの相対でござりまする。以前の相対は主として敵対じゃ。競争じゃ。あとに残るものはいつも怨みか憎しみ。きびしく実行すればするほど恨みと不幸は深まるばかり……しかし、次の相対は根本から違うてくる」

敵と競争する相対(関係)では、勝ってもスッキリしない。相手もスッキリしない。たとえばある事業が成功したとしよう。儲かればうれしいが、その成功のウラには必ず犠牲がある。打ち負かされた競争相手や、疲弊するまで働いた従業員、泣かせた下請け、ごまかして融資させた金融機関。顧客への嘘などもってのほかである。けっして幸せにならない、その先にある人と人との関係づくりを極めよ、と天海はいう。

天海は手元の筆と紙をさして、その理を説明する。

「この筆が、筆としての使命を果たすためには紙が入用でござりまする。筆が紙と反撥するのが無以前の対立。筆が紙を認めて両者の力で書物を産む…この理を悟って歩くのが第二の相対でござりまする」

つまり、平和の時代のリーダーである家康が、己の幸福を願い、敵を倒すことに腐心していてはならない。家康は筆であり、江戸や日本国は紙である。両者が認め合い、助け合い、つくり合う世をつくれ、神のように大きい花弁の花を咲かせよ、と天海はいったのだ。

この章(明星瞬くの巻「雲龍を呼ぶ」)の真理にはぶっ飛ばされた。自分の文はまだ筆(自分の思想)と紙(文章、構成、登場人物…)が反発しあっている。筆と紙を調和させねばならない。あなたの仕事にもどこかハマる教訓があるはずだ。営業では「売りつけている」うちは真の喜びはない。製造でも「このくらいで…」と妥協しているようでは名品は生まれない。

サッカーの話にもどれば、やはりイニエスタは神にならねばならない。

相手チームに勝てるかなどと、小さなことを考えるようじゃダメだ。ジーコがしたように、日本のサッカーをレベルアップさせるためにどうすればいいのか?相対する選手をいかに動かすか?どうサポーターの心を動かすか?神戸から、Jリーグ全チームにそれを普及させていくにはどうすればいいか?そういう姿勢でプレーしてほしい。それができる選手であるし、彼が神となる視点こそ、チームの苦境の突破口になるはずだ。

さて、明日(5月12日)のヴィッセル神戸ー鹿島アントラーズ戦、神様は降りてくるだろうか。

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