健康診査を受けると、日本医療の縮図が見えてきた。
あと20年文章を書くために、年老いていく体のお手入れ&メンテナンスを毎朝している。念入りにストレッチと腹筋、プッシュアップ。緑内障治療で眼圧を抑える点眼薬と、花粉症対策の舌下免疫療法。しかしなにしろ、この穴をふさげば別の穴あくというモグラ叩きの健康状態(^^;)、年は取りたくないものだ。
先日は市の健康診査を受けるため、X病院検診センターへ行った。基本メニューだけだからパッと終わるかと思えば大混雑。待ち合いでウトウトしながら1時間半、ようやく最後の聴診器と問診へ。診察室は3コマあって、存じ上げているI医師(ジイジ)がよかったのだが、別のX医師になった。50歳くらいのX医師は僕の腹部と背中の音を聴いたあと、僕を見つめてこう言った。
「不整脈があります」
「はあ?」僕はポカンとした。
X医師は自覚症状はないタイプですから、再検査をお願いするかもしれません、以上です、というとくるりと背を向けた。
確かに自覚症状はない。あるとすれば期外収縮だろう。しかし少し説明してくれてもいいのに…。僕は以前、冒険家三浦雄一郎氏の主治医で、不整脈治療の大家の記事を書いた。バルーンカテーテル焼灼治療の権威の記事も書いた。だから期外収縮も危ない不整脈も知っている。だが普通の人はそんなこと知らないのだから…
さらに検査結果も疑わしいと感じた。心電図検査が「ポロポロ」だったからだ。
結果がボロボロなのではなく、電極がポロポロ落ちたのだ。検査師は二度も三度もミスをした。僕のような痩せタイプ(BMI18を切る)は肉がないため、電極が左の肋骨にうまく付かないことがある。それで心電図がブレることが往々にしてある。それをX医師に言おうとしたが、聞いてくれそうもないので言葉をのみこんだ。
マアもっとお金を出して人間ドックせよ、ということだろう。健康はお金次第ですから。しかしただ人間ドックをすればいいのかというと、それも違う。僕は「かかりつけ医」に診てもらうのが一番だと思っている。
家庭医、総合診療医、プライマリ・ケア医、GP(General Practitioner)、名前はいろいろあるが、ともかく内科の医師で、健康について幅広い最新の知識があり、目も整形も心臓も呼吸器も脳も紹介先を持っていて、インフルエンザもアレルギーも診てくれて、もちろん健康診査もそこで受ける。診察室で会話がちゃんとできて、時に人生を語りあえる医師。これが理想形だ。
ところが僕の住む近所にはそもそも内科がない。昔ながらのかかりつけ医は、医師の高齢化で閉院している。僕は舌下免疫療法(内科)も眼科も歯医者も検診も、場所もバラバラなら、関係も何もない。僕だけでなく都会や郊外では、だいたい似た状況があるだろう。
医療モールというビル診療があるが、あれは経営の効率化のためではなく、本来は内科医が中心になって、ビル内の他の診療科のハブになる仕組みだ。現実にはちっともそうなっていない。だから患者は分散してカルテを作りまくり、医者はいくら養成しても医師不足が解消されず、国民医療費も減らない。
むしろ医師不足に悩む地方の方が理想像に近いかも。医師不足だからあれもこれも診るという皮肉ではなく、診療施設も効率化しているし、患者をヘリで送るシステムもある。
先日訪れた関東の山あいの某大学病院には感心した。非常に優れた総合診療医がいるのだ。なぜかといえば院長が「総合診療が大切」という信念があるからだ。先端的な治療もする大学病院でそれは珍しい。その院長は神経内科が専門だが、心療内科や精神科もカバーしている様子である。なぜですか?と聞くと…
「相手は患者さんだから、生き方の背景や心の問題を考えてやらないと治療になりません」
神経(心)の不調の原因は、患者の家族や生き方にある。その不調が身体各所に影響し、生活習慣を乱れさせ、生き方さえ左右する。それを聞き取り、診ることが総合診療の核心である。それこそ真の医療である。
そこまで考えてくれる医師選びをしたい。そこまで見抜いて医療政策をよくしてほしい。僕の健康診査はこうしてなかなか奥深い……(笑)
と言いつつ、不整脈でオサラバかもしれませんが…^^;
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