日本シリーズは工藤采配と甲斐捕手のキャノン砲で決まったが、今日はメジャーリーグで活躍した平野佳寿投手の良記事を読んだ。読みだすととまらない。その秘密を解き明かしつつ、文章トレーニングをしてみた。
「日本人新記録のシーズン74登板。平野佳寿のフル回転を支える人物。」(木崎英夫氏著)の記事のテーマは、平野選手に雇われて共にMLBで働く優秀なトレーナーである。トレーナーに必要な資格や技術は学べば取得できるが、本当に選手に寄り添えるトレーナーになるにはそれだけではだめだ。つかんだヒントに、自分なりの工夫や努力の積み重ねて、人間性を研鑽する。それは相手を尊重し、その内面に響く言葉と理論の裏付けがあるメニューを簡潔に伝えることである。あらましはこんなところであるが、ぜひ記事を読んでほしい。素晴らしい文です。
さて、この記事を使って文章トレーニングをしたい。僕のトレーニングには2つのやり方がある。ひとつは「丸写し」である。それも手書きでやる。非常に理解度が高まる。もうひとつは「解体」することであり、今日はそっちをやっていこう。
5000字を超える記事を一行化して「55行(1300字)」にしてみた。以下、全部あげると筆者に失礼なので、1/3くらいをあげていこう。
<一行化>
平野佳寿投手の好調の秘密はコンディショニングにある。
そのコンディショニングを維持するトレーナーがいる。
トレーナーは野球選手で芽が出なかった苦労人である。
トレーナー資格取得の学校や鍼灸の学校へ行き、資格と知識と技術を得た。
32歳でスポーツ事業会社に就職、さまざまな競技を担当した。
36歳で社会人野球チームでトレーナー職を得た。
臨時コーチは元ヤクルトの投手で、その投球論を聞いた。
「ロープを投げるように球を投げろ」という話は印象的だが腑に落ちなかった。
そこで投球の解析画像を見続けると、理想的なリリースポイントがわかった。
コーチは元野球投手で感覚的に話していた。選手とはそういうものだとわかった。
コーチの話(ロープを投げる)と、自分が学んだ理論(機能解剖学、運動学)を重ねた。
感覚論と医学的根拠の裏付けの両方があれば、選手は納得するとわかった。
なぜなら選手は選手は自分を持っており「感覚的な言葉」を話す。
まずそれを受け止めてあげる必要がある。
選手は納得したら自分から動き、そして成績が良くなる。
だから話し過ぎず、伝え過ぎずがいい。
選手の動きや思いに水を差さないことが大切。
…以下省略。
まとめるコツは、ただそのままを書き抜くのではなく、元文の引用もしつつ、数行をまとめていく。そうすると中身が頭に入る。次は<解体>をしていく。一行化した文をさらに圧縮をかけて数行にする作業である。以下のようになった。
<解体>
【結論】
平野佳寿投手の好調のウラにコンディショニングを維持するトレーナーあり。
【生きざま】
丸山トレーナーは野球選手で芽が出なかった苦労人で、基礎を学校で学んだ。
【飛躍】
あるコーチから得たヒントと自分の知識を合わせて、自分の基盤になるものを得た。
【仕事の姿勢】
感覚的な言葉と理論を統合することで、選手の心をつかむ。
【到達地点】
体の機能が正しく動くようにする丸山の一言を、平野は信じて実践する。
【二人三脚の努力】
試合前、試合後にグラウンドで、グラウンド外で平野と丸山がしていること。
【感謝と自戒】
平野は「自分をよく理解してくれる」と丸山の技術と人間性の高さを褒め称える。
丸山は「年齢を重ねて、だんだん人間性の大切さを理解できるようなった」という。
コツは、一行化した文をつないでは削ぎ落とし、キャッチコピーを作る要領、といえばわかるだろうか。削いで削いで、必要な言葉だけを残していくのだ。この作業を経ると文の構造(起承転結)がわかってくる。この文では、トレーナーの苦節、人となり、生き直しの苦労、飛躍のきっかけ、そこからの工夫、ブレイクスルー、成功へという流れが見える。こう書けばいいのか!がわかってくる。
名文には正しい構造がある。正しい構造とは自然な流れであり、読者が途中下車せずに、最後まで知りたい!がある。
もうひとつ強調したい。名文は饒舌ではないのだ。読者に考えさせる(まとめなおさせる)余地を残すくらいがちょうどいい。そうすると読者は行間を読もうとする。何かを得ようとする。あまりにわかりやすくて、親切丁寧では読んでも心には残らないものだ。読者に「読む汗」をかかせるのは大切だと思う。
最後に念のため、最初に書いたように「全文を手書きで書く」ことも励行したい。手書きで書くと文の構造が把握できるだけでなく、「表現を学べる」「文のリズムをつかめる」さらに「ボキャブラリーも増える」。文章がうまくなりたいなら、手書きと一行化と解体をぜひやるべし。これはテッパンです。今夜は以上です。
コメントを残す