人間の成長とは

東尾修氏(元西武監督)が良いことを言っていた。野球の話だが、僕は人間成長への直球として読んだ。

エースは試合をコントロールする能力が必要だ。だが、菊池(雄星投手)はまだ自分と向き合っていることが多すぎる。試合に入れば、対策を立ててきた相手を上回らなければいけない。打者に向かう状況を作らないといけない。(『西武菊池と巨人菅野との「差」は?』AERA dot. 週刊朝日  2018年11月2日号)

東尾氏いわく、菊池投手は投球時の足の上げ方や着地の仕方、そして体重の移動など、まだブレているという。良く言えば新しいことへの挑戦だが、もう9年目の主軸の選手、今冬メジャーリーグにも挑戦するのだ。それなのに、まだ試合をコントロールできず、相手を圧倒できないと苦言をていした。これには同感である。メジャーでどこまでいけるのだろうか…

菊池投手のことはともかく、東尾氏の「まだ自分と向き合っている」というコメントが気になった。

人は子どもから大人になるとき、自分と向き合って自我を確立する、イマドキなら「アイデンティティを確立する」わけだが、わかったようなわからないような言葉である。「大人になる」「自我を確立する」とは何なのか。

それは「自分が誰だかわかる」ことである。順を追ってまとめてみよう。

まず赤ん坊は産まれるとき、母親から生物学的な分離ーへその緒が切れるーをする。次に、おっぱいや肌のぬくもりから離れる乳ばなれがくる。これが最初の自立である。ごく簡単にいえば、母親の愛情が<甘やかされるほど>たっぷりと注がれれば、子どもは安心して離れていける。愛情が薄ければ、不安で離れたがらない。ありなしではなく、濃い薄いの問題である。このときの自立がうまくできないと、思春期にやってくる自我の目覚めがうまくゆかず、心にひずみが生じて心の病になりやすい。

思春期になると「自分と向き合う」。まず自分の肉体の美醜を意識しだす。「色気づく」年ごろである。同時に、自分の心には、温かい部分も冷たい部分もあることに気づく。生き物を殺せる残酷な本性があることにも気づく。そういう自分を受け入れなければならない。それが自我を確立するというプロセスであり、子ども時代にもっていた純潔さ、正義感や正直さを濁らせていくプロセスでもある。

次に、社会的•歴史的な視点から自我の確立を見てみよう。

人間がいわゆるアイデンティティを確立しだしたのは、たかだかここ100年か200年と言われる。19世紀の近代の入口まで、人には個人も個性もなく、あったのはただ職人•農民•商人やその家族という「階級」であった。階級社会の中に生まれて、育ち、死んでいけばよかった。だが産業革命がきて都市部に人口が集まり、仕事も単純労働になると、何世代も安定していた階級社会が崩壊した。「自分は誰なのか?」を考えなければならなくなった。自分は何をするべきか?自分の個性とは何か?それを考えだすと、重要なことに気づいた。

人間はひとりぼっちだ、と。

身分や仕事や地域を通じて存在していた連帯や仲間意識がブチ切られて、人は孤独になった。「孤独はいやだ」と耐えられない人は、大衆の中にまぎれ、名無しになって、個性を捨てた。大衆に紛れるのが楽であり安心だからだ。あるいは真の友達ではない人ばかりの電子社会で右往左往する。それはごまかしにすぎない。

一方で「個性をもちたい」「自分という人間を社会に知らしめたい」という人もいる。個性を築いてアピールできればいいが、できなければいっそう悩む。ますます孤独になる。がんばっても、多くの場合、ひとりぼっちが身にしみるのだ。

ざっとこういうことが近代から現代にかけて起きており、多くの哲学者や作家が論じ、描いてきた。代表的な参考書はエーリヒ•フロムの『自由からの逃走』(1951年)である。そこには子どもから大人への変化が大きな視点で描かれている。興味ある人は読まれよ。

野球の話からずいぶんと遠くなったが、真の人間成長とは「自分と向き合うだけ」の状態から、自分も含めた「人間と向き合える」ようになることである。

自分も人間のひとりとして見れる、大きな目を持つ。すると、自分と他人との間の距離が健康になる。嫉妬をせずに、いじめや差別もなく、まして暴力もなく、さっぱりとつきあえる。ルールの中で正しい競争に励み、負けても相手を讃えられる。これが真の人間成長であり、自分と格闘ばかりしているうちはまだまだなのだ。東尾氏はここが問題だと言っているのだろう(深読みすぎるかもしれないが)。

かくいう自分はどうか?

ぼくはようやく「心の錘(おもり)」らしきものが持てるようになった。ぶれなくなってきた。そろそろ寿命という時であるからマコトにお恥ずかしい。ただ、「ひとりぼっちからの脱出」というテーマで、もう1冊「読者に向かう本」を書きたいので、それまでは死ねない。がんばります。

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