哲学と文学

「タミヤニュース」を整理していたら「サルトル手帖」が出てきた。

ナニナニとかけてコレコレと解く、というなぞかけではない。ただ、押入れの奥にあった「タミヤニュース」(プラモデルのタミヤ模型が1960年代から発行しているモデラー向けの通信誌)の整理をしていた。小学生のころプラモデル派だったので、創刊号から60号くらいまで(欠番も数巻もあるが)ある。この稀少な冊子を高値で売れないかとヤフオクを調べると「1冊100円」といふ。そんな価格で売るンなら「タミヤニュース物語」でもいつか書いてやろうと思って、売るのはやめた。

タミヤニュースの束の中に、なぜか「サルトル手帖」がはさまっていた。

これは人文書院刊のサルトルの翻訳書(引越し時に捨ててしまった)の付録だったと思う。タミヤニュースの束に挟まれていたのは因縁でもあるのだろうか。サルトルの翻訳も手がけた中村真一郎氏の、わずか4ページの手帖を読んでいくと、興味深い記述があった。念のためサルトルとは、フランスの哲学者であり作家でもあり、自分はどんな存在なのか?という問いかけをしつづけて、実存主義という思想にまで高めた人だ。行動する哲学者というカンバンもかかげていた。マアそれだけ知っておけばよろしい。

サルトル手帖にある興味深い記述とは、次の一節である。

作家の目は、論理の到達する地点よりも遠くを透視する。それは神秘家の目に近い。(その場合だけ作家は成功する)しかし哲学者の論理は、その飛躍に歯止めをかけるだろう。ぼくにはあの長編(注:サルトルの書いた小説『自由への道』のこと)の人物たちの動きは、サルトルの哲学によって、行動を制限されているように思われる。(サルトル手帖12 人文書院 1952より)

解説をしていこう。ここで作家として、また哲学者として著名なサルトルの姿勢について、中村氏は一刀両断にして解剖している。哲学者としては「たいへん凄い人」であるが、その哲学の凄さのせいで、小説家としては「つまらない」というのだ。その理由がサルトルの「重い哲学」のせいで読者が飛べない、だから登場人物が硬い、動かない、おもしろくないという。続けて「哲学と文学は正反対のものだ」と中村氏は指摘する。これにハハンと思った。こういえばわかりやすいだろうか。

文学は読み手を自由に飛躍させる。
しかし、
哲学は飛躍にストップをかける。

哲学とは沈思黙考である。よく考えて、行動に制限をかける学問でもある。ほら哲学者はみな悩んでいるイメージがあるでしょう。一方文学はちがう。あらゆる制限をとっぱらい、自由になろうとする生き方を物語に書くものだ。そう言われてみると正反対である。サルトルという人は哲学と文学を両方もっていたにせよ、哲学がまさっていた、というわけである。

あるいは「哲学」を「科学」に置きかえてもいい。科学は実証されねばならない。研究者が「発見した!」とお風呂の中で飛び上がっても、風呂場から出たらからだが冷えても、発見が再現できるかどうか調べなければならない。科学者は結論にすぐに飛びつけない体質をもっている。

もうひとつ、哲学を左脳、文学を右脳に置き換えてもいい。迷信もあるとはいえ(今では右脳と左脳はおたがい補完しあっているとわかってきた)、論理的、客観的、計算をむねとする左脳は、感情や感性やイメージをむねとする右脳にブレーキをかける。ひとりの中にも右脳と左脳のせめぎあいがある。たとえばこんな自己対話が心の中にないだろうか。

右脳:オレのやりたいことはこれだ、これをやろう!
左脳:でもそれで食っていけるのか?
右脳:いけない(笑)でもやりたいんだ。
左脳:じゃあ趣味でやれよ。
右脳:オッケー。

われわれは凡人は両刀使いの大谷翔平選手でないので、どっちかしか持って生まれない。だが人類全体から見れば、この両方がうねるように挑発しあって、進化してきたのだ。

哲学も文学もどちらも人間の苦悩が対象である。苦悩とはいったいなんぞや、人はなぜ苦しむのか、どうすれば脱出できるのか、どうしたら飛べるのか。魂の浄化こそ古今東西の人生の主題であり続けてきた。哲学と文学はおもてとうら、左と右みたいなセットなのである。

ということは、どんな文学物語にもウラには哲学があるべきなのだ。ウラに「意味」や「理論」武装がなければつまらないのだ。感情だけを書いたものはうすっぺらい。だが文学では哲学は舞台の奥に隠す。後ろへやって見えないようにして、知りたい人だけが舞台のそでから探しにきなさいという。普通の観客はただ舞台を見ればよい。転んで飛ぶ役者に涙すればいい。そして自分も飛ぼうと決心すればいいのだ。

生きるものはすべて、飛ぼうとして止まり、止まっては飛ぶ、この繰り返しなのだ。

悩める人を飛ばすーそういうものをぜひひとつ書きたい。

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