映画『赤ひげ』の人生を変える力

原作者の山本周五郎が「原作よりいい」と言ったそうだが、その通りだった。

僕も十代は名画座通い、たまにロードショーという映画漬けだったが、どこか黒澤映画は身近ではなかった。『七人の侍』はさすがに凄いと思ったが、『天国と地獄』も『羅生門』もうろ覚えである。この江戸時代の医師の物語『赤ひげ』は観たことがなかった。原作は山本周五郎の『赤ひげ診療譚』であり、本は熟読したことがある。

物語の舞台は貧しい人の多い江戸の下町。医療費どころか日々の暮らしがおぼつかない貧民は、病になると小石川養生所へ駆け込んだ。徳川幕府が開いた無料診療所だが、それが存在しうるのは、主人公の赤ひげこと新出去定の存在ゆえのところが大。彼は独裁者で、金持ちや肥満体の殿様には厳しいが、貧しい人びとや虐げられた人びとのために尽くす。なんの因果かそこに、長崎で修行して幕府の御目見医になる道を歩んだエリートの保本登が送り込まれた。最初のうちは反発するが、やがて医師のミッションに気づく、という物語である。

この作品で医師を目指したという名医がいたので、よし観てみようかとDVDを回した。フィルムみたいにチリチリは言わない…

感想はひとこと。圧倒的である。まさに名作、3時間という長丁場をまったく感じさせない。物語の入り方も展開もすごい。リアルな診療所風景といい、役者の迫真の演技といい、場面転換のリズムといい、そのカメラポジションやロングといい、ザッツ•ムーヴィである。長いので休憩が入っていたが、休憩は早回しした。

 

後半は特に涙ポロポロである。原作にはない「おとよ」のエピソードがいい。家の不幸で吉原に売られて奉公させられる12歳の少女である。不憫に思った赤ひげが、「この子は病人だ、病人は養生所へ」と言って、挑んでくる用心棒を次々と骨折させて「添え木をしてやれ」と言い放つ。言ってみたいもんだ。そして颯爽とおとよを連れていく。体だけでなく心が病んだおとよを、登は自室で看病をするが、人間に疑り深いおとよは、人の親切を受け付けられない。それを表現する目がすごい。

振り向けばこの目だ。

役者(三木てるみ)の「目」。この目つき顔つきが、やがて心を開き、変わっていく名演技。三木てるみは当時14歳だったというが、誰とも比肩することができない名演である。そしておとよの回復ぶりは、自分だけの栄誉を望み、こんな診療所なんか!と毛嫌いしていた保本登医師の心も開いていく。

それは昨今の「都会の病院を好み」「収入や名声を求め」「狭い専門を目指す」という若手中堅医師そのものである。なんのために医師になるのか?医師になって何をするのか?しかも女性を蔑視するとか、意味がサッパリわからん。そんなのが医師になってどうする?と憤ってみたり。

ともかく、ひとつ思う。映画は人を動かす力がある。

ちょっと思い出すだけでも、映画で人生観を変えられた人がいる。『惑星ソラリス』を観て人間中心の仕事をしようと会社名にソラリスを付けた人がいた。『キャバレー』や『ザッツ•エンターテイメント!』を観て踊り子に憧れ、キャバクラ通いをして花束を送っていた友人もいた。映画研究会に入って、映像づくりや役者になろうとした人もいた。僕はといえば、せいぜいロバート•レッドフォードの映画を観て(『スティング』だったか『華麗なるギャツビー』だったか)、笑顔を作る練習をするくらいでした。映画も好きだったが、雑誌『ロードショー』を読み浸ったように、やっぱり活字系の人だった。

だが僕も、映画『赤ひげ』を十代で観れば絶対に医師を目指した。貧しい人を救い医師になろうと思ったはずだ。モハヤ無理だけど、生まれ変わったら理系も絶対勉強します。

大切なことは「映画を真に受けるのも力」ということだ。感動体験を感動に終わらせず、仕事や人生の目標にできることだ。若い頃、誰も一瞬はそう思うが、続ける人、夢を実現できる人は少ない。だがね、巨匠なんてならなくていいのだ。ただ呼び覚まされた行動の遺伝子に従って続けるだけで凄いのだ。真に受けるのは力ですから。

映画を知って入れば、三木てるみさんの朗読会も行ったかもしれない。さて、今日は、劇場に映画を観に行きます。

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