『さらば、政治よ 旅の仲間へ』を読んで、ぐいっと。

1930年生まれ、来月88歳になる渡辺京二氏の、2014年から16年にかけての持論、インタビュー、読書日記を読んだ。

さらば、政治よ 旅の仲間へ』(2016年晶文社)には、老いても老いない不思議な思想家の「スタンス」が貫かれている。『逝きし世の面影』を読んで以来、この老人の作品が気になっている。本書は肩に力を入れずに読めるが、読んだ後は不思議に肩に力を入れたくなる。

たとえばこのくだりが気になる。

自国の商品の国際競争力を回復するために、身を削るようにしてコストを削減し、より廉価な労働力を求めて資本を海外に移転したあげく、得られたのは何だったのか。社会、つまりわれわれひとりひとりが生きる環境の荒廃ではなかったのか。(本書038)

まさにその通り。ここ10年、日本が停滞しているのはアベノミクスの失敗もあるが、どうもそれよりも、がんばったのに幸せになれないという実感をもつ会社員、市民が増えたからではないだろうか。効率を求めるグローバリズムが人を幸せにせず、あっちで搾取、こっちで粗悪品と、みんなを不幸にするとわかりだしたからではないか。だから渡辺氏はこう吠える。

何のために日本は戦(かつては第二次大戦で、経済ではGDP競争で中国)に負けたのかといえば、本当は大国とか一流国とかいう強迫観念と縁を切るためだった。そんなことより大切なのは、われわれが送っている生活の質である。だってそれこそ一生の生き甲斐を左右するのだから。(039)

だが日本は経済大国を求め、中国にGDPで抜かれ落胆する人々をばかりになった。僕もなんとなくその一人だった。それは違うな、と心底わかったのはずいぶんノロマな話で、2011年の東日本大震災の後だった。虚脱感もあったし、絆もあった。GDP競争が虚しいとわかった。だからといって、何もしないでいいわけではない。モハヤ政府の言う蜃気楼のために働くのではなく、自分のできる仕事を決めて、小さく、しつこくやればいいのだ。ところが言うは易しで、多くの人にはそれができない。組織に埋没するしかない。だから途方に暮れている。それが低成長の根っこにあることだと勝手に思っている。

渡辺先生はそんなひとびとの肩をページ越しに「マアマア」と叩きながら、「こうしなさい」とアドバイスしてくれる。

ひとつの企業を興すにしても、起業するにしても、やはり企業家の精神というのは、自分がつくっているものを通して、社会に貢献することです。どんなに売れたとしても、社会を悪くするようなものだってあるわけだから。(112)

このくだり、共感。悪いとわかっている食品とか粗悪品を作り、売るのはどうなのか。悪いかどうかが判然としなくても、たとえば依存症になるもの、酒やタバコ、スマートフォン…を作ったり売ったりするのはどうなのか。是非は人によりけりだとして、僕はそこからできるだけ離れたい。社会の役に立つ仕事をしたい。マアこれまで失敗の連続だし、今も息絶え絶えだけれども。そうだ、仕事以外のことでも僕は失敗をたくさんしている。次のくだりはズバリ。

僕は、やはり男であればどんな女と過ごせたかが基本だと思います。そこから家庭が生まれ、子供が生まれてくる。連れ合いと最後まで仲良くできたというのは、最後までセックスしたということですよ。そういう相手が必ずいるはず。それを見つけないで簡単に結婚するから、後で揉めたりするんですよ(笑)。(124)

渡辺先生、僕も「簡単に」して「揉めて」しまいました(笑)。男は結局女次第、どんな女と過ごせたかで、成功か失敗か言い切れる。ああ…成功したい。←ココ、切ない。

でも、人はきっと変われる。対談での、次の質問者との成功をめぐるQ&Aがいい。

質問者 コンサルタントの人に、成功している社長さんの共通点て何かありますかと、聞いたことがあるんです。すると、言っていることがコロコロ変わることですね、と。それは、答えが出た、と思わないで、いつも考え続けているからだ、というんです。

渡辺 それはいい話だね。変わるというのは無節操なのではなくて、ひとつの方向性を堅持しながら、いつも新しく転換し続けることだと思うんです。そして、人との繋がりで何か実現できるか楽しみたい。(128)

変わりましょう、頑固になって否定せずに、やわらかく、にっこりと。熊本在住の渡辺先生は、一極集中の是正のためには「物書きは地方に住め!」と言う。それもいいなと思うが、僕は「心の場所」も問題だと思う。自分がどこにいるか、どこを見て、どこを向いているか。場所をしっかりして、自分だけがやれることを、やり続けるのである。クソ暑いけれども。

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