地文、描写、セリフ

ひさびさに文章作法を深く突き詰めた。

インタビューというものは語りを文に再録するものである。しかし、語りは必ずしも読みやすくないので、当然語りの長さを調整したり(たいていは約める)、取捨選択をし、構成を考える。たとえばプロ野球選手への試合後のインタビューは、通路や短時間の会見下、時間の乏しさの中で、よくまとめられるものだといつも感心する。

僕が書いている医師のインタビューは、彼ら記者よりずっと執筆時間が長く、ゆえに裏を取り(情報収集)、脇を固め(筋をつくる)、深みを出し(読んでよかった)と、練りあげる時間も取れるわけであるが、単なるインタビューではなく「物語」にするところに大きな違いがある。

今回悩んで悩んで悩んで倍の時間をかけてやったのは、すべてを「セリフで書く」ことである。その人の語りがおもしろく、それを最大限活かしつつ、「物語」としての形式も損なわないように書けないものだろうか?と考えて「セリフ物語」にトライした。かつて書いたことのない形式が、これほどむつかしいものだとは思わなかった。なぜ困難か?それは、単純にセリフをインタビュー形式で並べて書くわけではなく、セリフだけで「その人の半生を語る」ゆえである。

まず低レベルなことだが、自分は会話を書くのが下手である。話し言葉として自然さがないじゃないか。と悩んで、原文(録音から起こした生の会話)を入れ込んで、自然に見せかけようとした。すればするほど冗長になり、意味のない言葉が増えていった。すると文として筋が消えていき、単なる喋りになっていった。ありゃー。

セリフだけでは文にならないのか?人に読ませる文を書いたことがある人であれば、文とは「地文、描写、セリフ」で構成されていることを知る。

地文とは説明文であり、歴史や経緯など背景を説明する「ト書き」または「読者ガイド」である。これがないと進めないのだが、ありすぎるとパンフレットと化して退屈になる。描写とは登場人物の動きや感情である。登場人物が「どうするか、どうしたか」。描写があるから読者は前を読み、登場人物と一緒に歩こうとする。いつも書くインタビューでは地文と描写とセリフで筋を進めている。野球の三冠王はホームラン、打率、打点。文の三本柱は地文、描写、セリフなのである。

セリフとは話し言葉だが、ほんとうはなんなのだろう?

戯曲のようにセリフだけの文を書いていくとわかったのが、戯曲は「相手がいる」からセリフだけでも筋が進行する。場面転換ではト書きがあるが、あれは地文なのである。だがセリフだけのインタビュー文は「相手がいない」ので、自分で自分を進行させなければならない。つまり、「セリフの中にも地文あり、描写あり、決めセリフあり」でなければならないのである。

なヌ?そんなことができるのかーーーーーー!!!!

とほんとに発狂しました。

文というものの奥深さに凹まされた日々になった。結局、描写と描写に近い地文を合いの手で入れることで、だんだんリズムは取り戻すことができたのだが、痛感したことがある。「セリフ、地文、描写」の三つのバランスには定石なるものはなく、すべては書いてみないとわからない、ということである。そこで改めて以前に勉強した文章作法をひもといてみた。いいことが書いてあった。

【セリフについての注意事項】
1、人物描写につながらない無意味なセリフは省略しよう
2、情景描写につながらないセリフも省略しよう
3、ただの変哲も無いようなセリフでも情景描写につながる場合は省略してはならない。
(『名文を書かない文章講座』より)

要するに「描写」に注意しなさい、ということである。喜怒哀楽の入った描写セリフにしなさい、ということなのである。マア相当練らないとその一言は出てこないのだが。結局は日々の鍛錬しかない。

【文を書く者への日々の心得】
1、出会った人間の顔。姿。話しぶりの観察
2、戸外の風景。出来事の観察
3、聞いた話の中で、印象的なものをメモにする。
4、新聞、テレビ、本の中の心にとまったものをメモする。
5、その日、思いついたこと、考えたことをメモする
(『名文を書かない文章講座』より)

下手に本をたくさん読むよりも、日々観察しメモすることで文はうまくなる。精進いたします。

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追記コメント。単に好奇心からセリフで書こうとしたのではなく、その人は語りがおもろいので「セリフがカギを握る」と考えてのトライであり、その人にも失礼に当たらないという判断をしております。

もうツツジの季節ですね。

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