藤井聡太の2局とも、「天使の跳躍」の駒が光った激戦だった。
世間の羽生は「銀盤のハニュウ」が大勢だっただろうが、ぼくはネット中継のハブに魅せられた。将棋の朝日杯オープン戦、羽生竜王と藤井聡太五段の一戦である。
仕事を中断して、試合を中継するウエブサイトを開くと、ちょうど藤井五段の師匠が盤上解説のゲスト席を立つところだった。局面が動くのはまだこれからのように思えた。しかしなによりも、盤上解説が絶妙なおもしろさである。かっこいい佐藤天彦名人のトークも知性たっぷりで読みが深いが、お隣の山口恵梨子女流棋士が綺麗なだけでなく、ツッコミが切れ味抜群、かつ絶妙のボケもあって笑い転げた。なんで将棋ってこんなにおもしろいんだろうと不思議に思うくらいだった。
この対局はもちろん羽生竜王が一枚も二枚も上手と思ったが、アニハカランヤ、互角というコンピュータの表示だけれども、どうやら藤井聡太五段が押している。この若者の良さはぼくは「押し」だと思っていたが、今日はその押し方が「強い」だけではなく、「創造的」で「でかい」と思った。
羽生竜王との一戦はだんだんと相手をねじあげて、しだいに組み伏せていく将棋であった。自陣の守りは手薄になっても、果敢に相手の王将に迫る筋には若さがある。ところが詰めは相手の駒を頂いて料理しようという魂胆があり、111手目で歩を張り桂馬を獲る。おびき寄せて追い込んで、最後はその桂馬を使って投了(下図)。その瞬間、背筋がぞわっとした。
正直、これが事実上の決勝戦であると思った。実際の決勝戦の広瀬八段との対局は、見る前から藤井五段だろうと思った。
この対局も(仕事があるので)途中から見だしたが、やはり中盤から藤井五段は余裕をもって攻めていた。優勢を決定的にしたのはここでも桂馬で、81手と83手のいわゆる「天使の跳躍」で王将ににらみをきかせた。すごいのはそのあとだ。王からかなり遠いところで、93手目に打った桂馬には「おお!」っという創造性があった。そこに打つのか。相手の飛車や角まで、一挙に取ろうという打ち手であった。これで相手の息の根はほぼ止まった。藤井五段は押しだけでなく盤面を自由にあやつる跳躍力がある。
桂馬の動き方を「天使の跳躍」というのはその跳ねるような動き方からだろうが、藤井聡太の桂馬は、むしろ蜘蛛の巣を吐き出す蜘蛛が、縦横無尽に盤上を跳躍するように、相手を取り込んでしまう粘力があり、意表を突く地点への君臨があった。すさまじい天才である。
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