春ですから。

ドクターの肖像の仕事も60人ほど書くと、人のつながりが出てきておもしろい。4年以上前に書いた医師の同僚(といっても後輩だが)が、初夏にでる肖像の号の主人公になって出てくる。その医師の「座右の一冊」が、城山三郎の『官僚たちの夏』である。

本書は通商産業省(昭和30年代当時)を舞台として、とにかく人間が好きな人事屋を軸に、彼に任免される官僚たちが日本産業界を世界に飛躍させようとする姿が生き生きと描かれている。

とりわけ人事屋の風越が机の上に“人事カード”をならべて、天下国家を変えるための人の配置を空想するシーンは印象的である。まさに人事カードというが、ほんとうにマジックインキでカードに名前を書いて、こいつはここに、こいつはあっちと動かす。ある者は手垢がつくほど触られ、ある者は「?」マークがつけられてしまわれて、などと、描きが実にうまい。かつてはこのようなビジネス本は「軽い読み物」と思っていたが、アニハカランヤ、人を少しでも書く立場になると、城山氏のシンプルでしっかりと人を描く腕の確かさに舌を巻くことになる。それがわかるようになったのが収穫でもある。

人を書くということは文字起こしではない。 ヒト起こしなのである。

そこで思ったのが、自分の4年半前の文のシンプルさである。先輩医師を書いた当時はまだこわいもの知らず、文が自由なのである。走って踊っている。4年後の今の文はどうだろうか。ずっとうまくはなった。ずっと深くなった。だがこわさを知ったぶん、走力が弱いところがある。考えすぎるところがある。と反省した。

初心忘れるべからず。何かをし続けるということは、経験や技をやたらにまとわず、つねにかんたんにすることである。

そこでさらに思ったのが、恋愛である。恋というものも最初はまっすぐである。一本のカギをハートのカギ穴に差し込むようなものだ。くるりと回せばカチンと音がして開く。だが何度もそれをしていると、いつのまにかカギの形状が複雑になっていく。迎える穴も幾何学模様になっていく。そうするとカギは入らないか、回らないか、抜けなくなるか。だからつねに動かして、つねにかんたんにしておく。マアそれがむつかしいのだが。

もう春ですから、あたらしく、かんたんに、シンプルにいこう。

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