タイトルが巧妙である。〝仕事は楽しいかね?〟なにしろ楽しくない人が圧倒的多数だからだ。君もそうだろう?私もサラリーマン時代、ぜんぜん楽しくなかった。本書より一行引用しよう。
人々は、したくもない仕事をし、同時にそれを失うことを恐れているんだ。
ずいぶん前のベストセラーの本書は、季節外れの大吹雪で飛行機が全て欠航したシカゴ•オヘア空港ロビーが舞台。閉じ込められた「仕事がつまらない」主人公が、高名なコンサルタントのマックスと出会う。金色の助言をもらって人生をやり直す話である。マックスはそもそも目標を設定するなんてことが間違っていると言う。2つ目の引用をしよう。
「僕たちの社会では、時間や進歩に対して直線的な見方をしている。そういう見方を、学校でじわじわと浸透させるんだーー人生とは、やるべき仕事や習得すべき技術や到達すべきレベルの連続なのですよ。目標を設定して、それに向かって努力しなさい、とね。だけど、人生はそんなに規則正しいものじゃない。そこから外れたところでいろんな教訓を与えてくれるものだ」
目標も、夢に日付をも、GTDも、ホントに違和感だらけ。我が不規則な人生ここにあり、でよかったのだ。そこには2つの出口があるという。1つは「何が道を開くかわからない」。
成功している人は決して目標を設定して、ゴールに向かって、なんてことじゃない。たまたま偶然でである。例えば野口英世は、ある日細菌学の本を入手した。売って学資の足しにしようとした。ところが待てよと読みだすとハマって細菌学へ進んで研究者になった。人間万事塞翁が馬なのである。
もう1つは「試すこと」。3つ目の引用をしよう。
新しい考えを受けいれるのは簡単じゃない。実際、僕たちの文化では〝一つのことに集中している〟のが良いとされているしね。
マックスは事業計画書を書いて、その通りやるから失敗するという。そうする代わりに毎日(のように)何かを変えろ、試し続けろという。変えていると人が集まってくる。注目されて何かが動き出す。やがて当たりがやってくる。毎日が生き生きとしだすし、何よりも変えることで失うことは何もない。
そうして仕事のリストをつくる。そこでマックスは告げる。4つ目の引用をしよう。
片側に仕事のリストを、もう片側に全世界を置くことだよ。
自分の仕事のリストを置くとは何か。例えばボクサーのモハメド•アリは駆け出しの頃、観客が集まらなくて困っていた。ある日、プロレスの興行を見て「ド派手にやればいいのか」と気づいた。それ以来「蝶のように舞い、蜂のように刺す」「オマエを3RでKOする」と大言壮語をしてスターになった。つまりボクシングという仕事を片側に、それ以外の仕事を片側に置く。
本書の帯は糸井重里が書いている。彼のほぼ日手帳の大ヒットはまさにそれだ。彼はコピーの技術を片側に置き、手帳を右側に置いた。そこから新しいものが生まれた。ドクターの肖像を書く私なら、仕事がツラい研修医を励ますために、ドクター向けの熱い修造語録のカレンダーを作りますかね。
本書を教えてくれた医師も行き当たりバッタリだった。それが世界的な名声を得るまでなのだから、本書の効果は実証済みである。
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