サイエンス•アート

図書館から借りた古くてばばっちい『ガン回廊の朝』をさらりと読了した。なにしろ昭和50年代の本だから仕方ない。

汚さはともかく、50人を超える名医の医師をインタビューしてきた今になって読むと、内容理解が以前よりも深くなった。医療面の知識がひとつ、人間心理の描き方がもう一つである。こんな名著には足元にも及ばないが、なんとかもっと良い医師像を描きたい。本書から一つ、興味深いくだりを紹介しよう。

肺がんの権威であった国立がんセンターの長谷川博医師である。主要な業績に肝がん手術の常識を一新した「肝静脈沿いに区域切除をする方法」がある。肝臓とは血の塊と言われる臓器で術中に大出血をおこす。文字どおりアンタッチャブルで、肝がんと診断されたら死の時代が長かった。彼はそれまで「グレープフルーツを切るように壁がぐちゃぐちゃになる切開」を、「ザボンのふさを外すようにすっきり割る切除」に変えて、出血を劇的に減らすことに成功した。

術中には輸血が欠かせないわけだが、彼のもう一つの業績は「なま血漿療法」である。「なま血には何かあるに違いない」と長谷川医師は考えた。本書から引用しよう。

子供の肝臓を切ったとき、母親から採ったばかりの血を輸血したところ、その子供の全身状態が劇的に好転し、顔も驚くほど生き生きとしてきたのである。子供にとって母親の血が特別の働きをもつことは、小児科でも以前から気づかされていたことだったが、それを目の当たりにするのは感動的でさえあった。

ある心療内科医いわくだが、4-5歳までの母親の愛で子供はすべてが決まる、とりわけ2歳より1歳、ゼロ歳児の方が母親の愛に子は敏感であり、言葉の嘘も誠実さも、愛の深さ浅さも見抜いている。乳母車を押しながらスマフォを見ているのを子は知っている。気をつけてほしい。それを証明するような話が、母から子へのこの輸血である。

この業績は「なま血漿療法」というタイトルで論文がいくつもあるが、むしろ「母と子の血の交換療法」と言ってもいい。母子の愛を科学的に証明ができるというのが感動的である。やがて細胞や遺伝子でも証明されるのであろう。

今の医学は「サイレント•アート」であると、故日野原重明氏(元聖路加国際病院理事長)が言う。患者に沈黙する(サイレント)技術(アート)ではだめで、「サイエンス•アート」にならねばならない。科学を伝える言葉であり、愛を伝えるのである。こういう方向に医学が発展していくことも大切である。

*****

閑話休題、今年のノーベル平和賞は素晴らしい受賞でした。核廃絶に賛成です。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中