そこにいるだけでいい。

心に力が入らない時、何がたいへんだろうか。

医師インタビューのテープ起こしをしつつ、心療内科の案件で電話インタビューを患者さん本人(女性)にしていた。Aさんとしよう。Aさんの症状は相当重いものだったが、数年かけてよくなってきた。その理由はある人の存在であるが、それ以外には何かなかったのか、なるべくやんわりとお話を伺ってゆくと、おもしろいなんて言っちゃいけないが、ひとつ発見があった。

彼女は結婚をしている。家庭をもっているが、心の病気になるとむつかしくなるのが家事である。掃除、洗濯、料理である。さてこの三つ、むつかしさの順序はどうだろうか?答えは…

洗濯<掃除<料理、である。

洗濯は洗濯機がやってくれる。せいぜいボタン2つか3つである。手洗いがあってもゴシゴシすればいい、あとは干すだけ。洗濯は単純である。

では掃除はどうか。心療内科医師いわく「心の整理がつくと掃除をしだすものです」。部屋と心の散らかり具合は相関している。心の病の人は掃除が苦手である。

一番むつかしいのは料理である。うつにせよパニック症にせよ、料理ができなくなる人が多い。なぜだろうか?

料理は工程が複雑だからだ。献立を考え、買いに行き、比べて買う。運んで冷蔵庫にしまう、あるいは下準備をしておく。順番を決めて作って出す。食べたら片付ける。この圧倒的な複雑さをやりぬく力が心にわかないのだ。おっと〝評価〟というオチたりケンカの原因になるのものもある。

ちなみにAさんがよくなってきたのは、夫が買い物や料理をしてくれるからではない。Aさんがそんな状況でも、一切とがめないからだ。病院のカウンセラーにもこう言われたという。「いいんですよ、そこにいるだけで」と。

ぼくは心に力が入らない時、何がきついだろうか?

バツイチ独居自炊で、ぼくもオチると作らない•食べない。掃除はする。原稿仕事はなんとかやる。講義資料はあんがいスムーズにできる。困るのは「本が読めない」ことである。アパートに幽霊が出る小説や、不倫で家庭がメタメタになる実話。どっちも読めなかった。間が悪い本を図書館から借りたもんだ。しかし仕事がらみの再生医療の本も読めないのはきつい。「いいんだよ、読まなくても」と言われても読まにゃならない。しかしそれより、やっぱりぼくも誰かに「そこにいるだけでいい」と言われたいものです。

そこにいるだけで背中に引っ搔き傷ができる…

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