『笑う警官』の社会背景

40数年ぶりにスウェーデンの名作推理ドラマを読む。中学時代に推理小説に耽溺したが、中でもとにかく重い作品だったのを覚えている。

笑う警官』、当時の翻訳は高見浩氏でこれも重厚だったが、スウェーデン語の英訳からの翻訳だった。近年、角川文庫では復刻シリーズとしてスウェーデン語からの翻訳を出版している(柳沢由美子氏の訳)。新翻訳のマルティン•ベックシリーズ、前から気になっていてついに読み出すと、やはりハマった。

激しい雨が降る中、首都では反戦デモが繰り広げられ、50人以上が逮捕され負傷者も多数出ている。騒然たる世情ではあるが、殺人課の刑事は暇を持て余してチェスを打っていた。ちょうどその頃、首都近郊で2階建バスが事故を起こして停車した。それを目撃したのは泥棒と犬を連れた老人であった。老人がパトロール中の警官に通報し、なんだよこれから署に帰ろうとしたのに…と警官がぼやきながらバスに踏み込むと凄惨な銃殺死体が多数…とまあスリリングな出だし。伏線といい、冷たい描写といい、容赦ない会話といい、名作中の名作である。

しかし迂闊にもぼくは、作者のペール•ヴァールー、マイ•シューバルが誰だか知らなかった。調べてみると二人は夫婦で、ペールはジャーナリスト、マイは詩人だという。驚いたのは、二人で10作書こうと決めて書き出したのだが、最初の作品『ロゼアンナ』から1章ずつ交互に書いたというのだ。なんでそんな芸当ができたのか?

それは当時の冷たい資本主義社会のスウェーデンへの警鐘であった。ジャーナリストのペールが真正面から社会問題を買いても3000部しか売れなかった。だから二人で議論しながら、60年代のスウェーデンの社会問題を読まれやすい推理小説の形式で書きぬいた。その結果世界で1000万部を超えるベストセラーになった。

この重い社会描写に合点がいった。犯罪の動機も犯人の思想も、そこに結びつくのだろう。娯楽の裏に思想あり、思想を推理の娯楽にのせるとはあっぱれ。文を書く上で参考になった。全10巻、40年ぶりに読破したい。

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