『猫町』は静かである。

当家の猫はここ2-3週間、決まって3時半過ぎに(朝の)、みゃ、みゃ、みゃと言って飼い主を鳴き起こす。寝ぼけた我輩は怒る時もあれば平静を装う時もある。起きれない時もある。ともかく猫をベランダに出し、ご飯を足し、トイレを片付ける。ゆえに猫原発性不眠症候群を患っている。

うちの猫のうるささに比べると、萩原朔太郎の『猫町』には不気味な静けさがある。

朔太郎の猫町にはいくつが本のバージョンがあるようだが、手にしたのは2012年に長崎出版から出たものだ。造作も構成も凝っているが、版画家の金井英津子氏の作画がすこぶるいい。

さてお話は茫洋かつ狭隘な戯言と言えばいいのか、神秘空想が空想を呼び空想を重ねてゆく。単純にいえば方向音痴の話なのだが、その方向音痴は薬物汚染からのものだけでなく、どうしたものかつい四次元の逆空間へさまよいこむ。東は西になり、上は下になり、現実は空想になり空想が現実になる。

舞台は北越地方の温泉町Kである。キャットの「K」か、いやそれは「C」だ。識者によれば富山県の「黒薙温泉」らしい。散歩に出て迷ったあげく麓に到着すると思いがけない繁華な町にでた。町に迷い込んでみると何かがおかしい。何がおかしいか…

あまりにも静かなのだ。

それ以上はマア短い話だし、雑文での要約は無粋である。それよりも明るみを帯びた明け方の暗闇の中で我輩は起きていた。寝ている我輩にむかって、にゃ、にゃ、にゃと鳴いて起こそうとしていた。我輩は我輩をかじった。舐めてみた。だが起きやしない。起きるわけがないのだ。なぜなら我輩はもう起きている。起きている我輩が寝ている我輩をどうやって起こせるというのだ。どうどう巡りで答えがない…と思ってはっと目がさめた。

ピノ子が鳴いていた。時計を見ると明け方の3時半。朔太郎に起こされたのかピノ子に起こされたのかわからない不思議な気分になる読書であった。

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