おもしろい医師はいるもので、歯切れの良さもさることながら、彼の父の話がよかった。
戦前に帝大医学部を卒業して軍医となって、ビルマに従軍した。ビルマというと、日本軍が歴史的な敗北をしたインパール作戦というのがあった。日本軍2万人以上が死んだ戦争、さぞや悲惨な体験をされたのだろうと言うと…
「ビルマの看護婦さんをはべらせて、けっこう楽しくやってたみたいです」
英国軍に敗北して兵士と共に収容所送りになった。今度こそ悲惨だったろうと思えば、収容所でも気楽だったという。
「収容所では人間は二種類に分かれ、ただじぃっとして食べ物が来るのを待つ奴と、積極的に自分から取りに行く奴がいたというんです。父は収容所の近所の患者さんを往診して、新鮮な魚をもらってきて食べてたそうです(笑)」
豪胆な人だったのだろう。別の意味で興味深いのは、あるビルマの従軍医師の記録である。そこには愚かな二分割の話があった。
ひとつの連隊を「必勝部隊」と「敢闘部隊」に分けた。必勝部隊は敗け戦の経験のない兵士と将校がひとつの部隊をつくって機動的に戦うという。残りの敗残兵は戦意もないだろうから現地にとどまれ、要するに死ねというのだ。軍医殿の見るところ、現場経験のない将校の空想的立案だった。(『軍医殿! 腹をやられました』中野信夫著より)
医師の父は、食べ物をじぃーっと待って餓死するよりも、自分のできることで生きる道を切り開いた。一方、別の軍医殿の見た戦場では、愚かな部隊編成によって結局みんな死んでしまった。
よく人は二種類に分かれると言われる。貧しい者と富む者、ネガティブな人とポジティブな人、武闘派と静観派など。定年まで大過なく勤めあげる直線型の人生もあれば、転職を二度して起業してうやむやになり、離婚もしたスパイラル型の人生もある(さて誰だろう)。
どれがいい、どれがよくないというのはない。価値観の問題であり、能力も不可抗力もあるから。せめてあんな将校がいない時代に生きて、自分で道を決められるのであればいい。
空で出張しましたが、まだミサイルは飛んできませんでした…^^;
コメントを残す