うんちがでるまでの話をしてみたい。
昨日の夜、出さなかった。おしっこはいつも通り何回もした。ご飯もいつもどおり、かりかりと生ぽいマグロスティック。量も普通に食べたつもり。いやちょっと吐いたっけな。まあ吐くのは珍しいことじゃないんだけど。飼い主さんはあたしがうんちをしないのを気にかけた。本を読みながら、あたしの方をちらちら見てた。でもあたしが砂場に屈みそうもないんで「まあ1日くらいうんちでなくても死にはしないよ」と言いながら寝ちまった。あたしはなんだかおなかが重くて、晴れない気分だったけれども。
食物繊維は不足してる。うちには猫草が植えてある。葉っぱが垂直跳びのように伸びるあれだ。だけど暑さのせいかへたって繊維もへちまもない。猫はシャキッとした猫草をかじりたいんだ。あと水分。飼い主さんは「ジンジャーエールを飲む猫だったらすごいのに」とワケわかんないこと言う。どうやら今読んでる小説の話らしい。よく感化されるんだ。ジンジャーエールの代わりに牛乳をくれた。「牛乳飲んだらうんちでるかな〜」って言いながら。飼い主さんのつぶやきによれば、人は牛乳で腹をくだす。猫もそうあるべし。でも猫はもともと雑食だから下痢には強いんだ。
それよりか遊んでほしい。
飼い主さんの座ってるそばに行って見上げる。カシカシとキーボードをたたいている。書けねえなとか、ちがうなあ、おりてこないなあと、さかんにつぶやいている。なかなかあたしの方見てくれない。
だからひょいっと机に乗って銀色の小さいディスプレイの方に陣取ってやる。あたしの方を見てくれない時、いつもやってやる。ペンで書いているときはノートの上に乗ってやる。それでもあたしをじゃけんに扱うからスペースキーをぎゅっと押してやる。「わぁー猫語打ちやがって!」って叫んであたしをのける。
遊んでえと棒を持ってゆく。じゃあと腰をあげる。じゃらそうと懸命にやってくれる。だけど飼い主さん、猫タイミングが相変わらずつかめないんだ。ワンパターンなんだ、もっとクリエイティビティを出してほしい。これじゃあたしだってイライラするわ。
あたしの物憂い顔に飼い主さんも心配顔になった。パソコンで誰かに相談した。「うちの子、うんち出ないんだけど」「おしっこは?」「おしっこは普通にしてる」「じゃあ大丈夫か、トイレに行ってかまえて出ないのは尿路結石」「それは大丈夫かな」「じゃあ〝のの字〟ね」
飼い主さんはあたしをつかんだ。おなかをみせてごらんと言いながらさすってくれた。ののじ、ののじ、と言って。気持ちよくもないし、へたくそだ。それもすぐに飽きたみたいでまたネットを見ている。変なニュース読んでるのかなと思えば猫のサイトを開いてる。どれも同じこと書いている、コピペだなとつぶやいた。それなりに調べようとしてくれている。でもぷいっと出かけちまった。あたしはひとりぼっちだ。体は重いし、元気はでないし、ご飯も食べる気にならない。だんだん暗くなる部屋でさみしくなった。
飼い主さん帰ってきたのは6時過ぎだった。ごめんねー遅くなってと言って、真っ先にトイレを見た。もちろんまだうんちはそこにない。あらー、してない、うーんとか言ってた。そのうち飼い主さんが買い物袋から紐を出した。赤と青と白のストライプの幅が広い紐だ。おもしろそう!あたし、紐好きなの。きゅんきゅーんと言ったら、これ欲しいの?わかったよと言って、鋏でちょっきんしてくれた。おもしろいのなんのって!久しぶりに紐追っかけたわ。ビュンビュン走ったわ。飼い主さんをあっちこっち引っ張り回したわ。飼い主さんは自分が引っ張り回したと思っているだろうけど、いつも猫が主導しているの。おかげさまでひさびさに運動もして、飼い主さんも喜んでいた。このくらいで許してやろう。あたしはトイレに行ってかまえた。
でた、どっと。
いや、正確にはだしたの。あたしずっとガマンしていたの。心配させてやったの。しかしマアどっさりでたわ。失礼おほほほ…。ザッザッと砂でかりんとうがいっぱい。飼い主さん、すぐに見にきた。超喜んだ。出たねーよかったねーほんとよかったねーとあたしのことを何度も何度もよしよしスリスリしてくれた。あたしもうれしかった。お腹もすっきりした。ガマンしてよかった。
飼い主さん、また仕事をしだした。今度は捗ったみたい。かっこいい、キマったな、ここまでうまく書けた、と大きな独り言を言った。翌朝、飼い主さんも出たーと言っていた。どうやら便秘症みたい。原稿ができてほっとしたんだろうな。猫も人間も、ほっとするとでる。良い関係を築くとでるもんさ。わかってくれたかな。
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