どうして人は潰れないで生きていけるんだろう。
書いても書いても編集段階で二の足を踏まれている文がある。それでも書き直している。良くない理由はわかっているつもりで、読みにくいか、読み手が自分のこととして読めないか、読んでもつかむものがないか、そのいずれかか全てだと推察しており、再びどころか三度いや四度も書き直している。我ながらどうしてそこまで粘れるんだろうと自嘲している。いや吠えている。
「諦めるものか!」
と部屋兼仕事場で抑え気味に叫ぶと、猫はキョトンとしてる。諦めるのかオマエ!幸せにしたい人がいるんだろう。それを諦めるのか!猫は身繕いを始める。いいかいピノ子、君のご飯もこれにかかっている、もっと大きな部屋に住みたいだろう、ぼくの苦しみを理解してよ!と言うとわかったような顔をして、プイっと寝床のある部屋に消えてゆく。ぼくは歯ぎしりをしながらキーをたたく。
諦めずにできるもうひとつの原動力はファンレターである。と言っても知人ですけれども(^^)Mさんが白内障のトップドクター赤星隆幸医師の号(ドクターズマガジン2017年2月号)の感想を送ってくれた。「素晴らしいドラマ」「人のためにを貫いた道」「特許を取らずに公開」「私も正しいことをしよう!人のために!」などなど書いてくださった。
過大な宣伝ではなく、赤星物語は評判がいい。ある若手医師は「ロールモデルを見つけた」と読書感想を書いた。先日も赤星医師の勤める秋葉原アイクリニックで、手術を受けた患者が、待合室にあった今号を読んで家族に読ませたいと、わざわざ編集部に問い合わせて購入された。自分も受けた術者を書けたのは運命的なものも感じる。
お手紙をくださったMさんも辛苦を耐えている人だ。Mさんはどうして潰れないでいられるのだろう。手紙に二つ方法が書いてあった。
1、「良い子でありたい」ことをやめます。
2、(意思疎通がむつかしい人でも)相手の心の声を聴きます。
良い子をやめれば肩の荷はおろせる。Mさんのそれがどんなものかはわからないが、ぼくは数年前「悪い子」になる決心をした。生の欲望に従った。本当に愛する人を幸せにしたい。ただそれだけがしたい。ぼくにはMさんのように意思疎通ができない人の心の声を聴けるかどうかわからないが、ひとつ言えるのは、誰かを本当に愛せたなら人間への理解は深まることだ。人や動植物に優しくなれる。だからいつか聴ける気がする。
もう一つ、手紙には書かれていないが、Mさんは自分の世界(歌うこと、作曲すること)がある。三つ目の方法はこれだ。
3、自分の世界をもつ。
自分の思いを表現できる世界を持つ。歌、楽器、踊り、絵、漫画、書、花、刺繍、写真、詩歌、散文…なんでもいいが「創作」がいい。人に向かって表現すること、人に理解されようとすることは、最も困難でだから尊い。まだあった。それは赤星先生というロールモデルを持った読者が教えてくれた。
4、ロールモデルをもつ。
赤星先生自身もまたロールモデルを持っていた。小学校の頃、横須賀市の衣笠病院の診察室で見た光景。眼科医の古谷医師が包帯を取った患者が「見えた!先生ありがとう!」と叫んだ瞬間、眼科医を目指そうと思った。ロールモデルは一生モノである。その次の号で書いた本永英治医師(沖縄県立宮古病院)は別のモデルを持っていた。高齢の年寄りである。
5、心にマカトばあさんをもつ。
宮古島で一人暮らしのマカトばあさんは、土日になると本永医師に往診を頼んで、点滴を打ってもらった。足腰が弱いとはいえ島で一人きりの医師として疲れているのに、また土日か…と心の中で舌打ちをした。だがマカトばあさんが本島の施設に入る日が来た。フェリーに向かってテープを投げて手を振ると、ばあさんはフェリーから岸に渡した板の上を、足をひきずって降りてきた。そして本永医師の頭を撫で回して言った。ありがとう、ありがとうと。本永医師の目は沖縄の海のように美しい波で溢れた。
人に心から感謝されるほど嬉しいことが他にあるだろうか。感謝してくれる人を増やそうと思わないだろうか。思えば潰れずにやれるのだ。やればきっとマカトばあさんを増やすことができる。
5つの潰れない方法を書いたが、最後に一本釘を刺しておきたい。あなたが本当に良いと思ったら、心から褒めよう。Mさんから頂いた3枚のファンレターはぼくの宝物である。こんなに褒めてくれる人がいるもんか。だから何か良いと思ったら、歌や芝居や絵や写真や文や料理やデザインや、なんやかやが良いと思ったなら、目いっぱい心から無限大に褒めよう。それが誰かを、そして自分を、潰さないことにつながるから。
恥ずかしい‥‥でも光栄です!笑
読んでいて、本当に胸が熱くなりました!
素晴らしかったです!
また次回の傑作も楽しみにしています!
あなたの永遠のファンより。
ほんとうにほんとうにありがとうございました。今日もがんばろー!( ^ω^ )!