「賞味期限」や「消費期限」がテーマであるが、実は人に関する本である。
冬場は卵は57日間、生で食べられるとは知らなかった。茹でる焼くなど加熱すればもっと長くOKだという。ではなぜそれより短い賞味期限が付けられているのか。生産者やお店はたくさん売って商品回転率をあげたい。ひいては捨てさせても構わない。騙されていたのか…
賞味期限のウソを次々と突きつけられる中で、著者の指摘する1/3ルールには深いため息も出る。
食品業界の商習慣で、賞味期間を1/3ずつ区切り、最初の1/3を納品期限、次の1/3までを販売期限とする。それ以降は売らない/売れないという売り手の都合である。その結果納品を急がせ、販売も急ぐ。期限を過ぎると小売店は返品する。納品期限の返品ロスで821億円、販売期限の返品ロスで432億円、〆て合計1253億円が返品されている(H26)。
なぜコンビニは24時間開店するのか。そのために一日何回転も商品仕入があり環境破壊につながる。クリスマスや恵方巻きの翌日にゴミになる食品がある。一方困っている人に到達しにくい。食品流通には問題がたくさんある。
見えてくる食品ロスの真の問題は「人」なのである。
生産者や小売業だけではない。消費者にこそ問題がある。盲目的に期限を信じる。スーパーの棚の奥から商品を取る。割引で必要以上に買っては捨てる。
本書のコア•メッセージは、末章にある「互酬性」という言葉に凝縮されると感じた。もらったら返そうという気持ち、してあげたら何か返ってくる期待、他者を慮ることである。考え方次第、行動次第でこの世は美しくもなり、効率も良くなる。資源も大切にできる。
消費期限とは人が作ったルールである。むしろ自身の五感で賞味を知るのが大切だと著者は言う。知らないことは怖い。正しい知識が無いと人は狭量になり、欲望に走り、他者を慮ることができなくなる。知識の啓蒙も必要である。
だがもっと怖いのは「知っていても売る」という心の麻痺である。著者の目はそこに注がれている。井出留美さん、良書をありがとうございました。
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