家庭の幸福を求めると…

ある方が太宰治全集の9巻に影響を受けたと書いていたので調べたら、晩年の傑作「斜陽」「人間失格」「グッド・バイ」などが収められている。その中に掌編『家庭の幸福』がある。

終戦直後の話しである。ふとしたことからラジオを入手した。ラジオ番組で「街頭録音」は民衆と役人が街頭で意見を述べ合うというものだった。民衆は暮らしを良くせよ!と役人に迫る。だが役人は「妙な笑い声」をあげて、「お説ごもっとも、まあ極端なこといわず、官も民も日本の再建のためにやってますから、皆さんのご助力を願いつつ…」とかわすのである。それを聞いて役人のヘラヘラ笑いを聞くに忍びない太宰は家人に「ラジオを消してくれ!」と怒鳴る。

その夜、太宰に短篇小説のアイデアが浮かぶ。主人公は2人の子と妻のいる模範的な戸籍係である。酒も煙草もやらない。家庭を楽しくするために家を買い、家業もちゃんと尽くしている。今日も仕事が終わり帰宅時間となった。そこにみすぼらしい女が出産届けを持って来た。主人公は「時間外だから」と言って受け取らずに帰宅する。女は思いつめてその夜、玉川上水に飛び込み自殺した。新聞の片隅にその記事を見ても主人公は女のことを思い出せない。

家庭のために生きることーそれは官僚主義のように諸悪の元であるーこれがあらすじである。1948年初出の掌編、この後自殺をしたのは有名な話しだ。

この掌編は官僚主義をけなすとか、家庭を大事にすることの是非を問うものではない。家庭の幸福に幸福を見いだせない自分自身への自虐、幸せを求めることのエゴイズムこそテーマなのである。

ぼくも幸せを求めてエゴイズムに走った。そこに罪悪感が乏しいことがぼくのテーマである。幸せになるなんてなまっちょろいものじゃないというのが、ぼくの人生の実感ある。

太宰が幸せだったかどうかわからないが、少なくとも彼は自分の問題を書き切れたから良かったのではないだろうか。ぼくも少しでも肉薄したい。

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いやたんに風邪をひいてうなされているのです…ゾクゾク。

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