セミ、リタイヤ

殺生するんじゃないの、ピノ子!

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羽音が聞こえた。網戸越しにベランダを覗くと、飛べない蝉がじたぱたしていた。もう真夏ですね。猫のピノ子がじっと外を見ているので、何かと思えば真正面のベランダの壁に。

遊びたくてウズウズしていたけれど、おさえてよカームダウン。蝉は壁を上り、落ちてはまた上り、しばらくするとアルミサッシの桟の脇でひっくり返っていた。もうだめかと思えば、まだ壁を登っていた。羽音で歌おうとしていた。

ボブ•ディランに『蝉の鳴く日』という曲がある。1970年初夏、プリンストン大学の森で大合唱のように鳴く蝉をきいてつくった。蝉といえば日本では7年ほど地中にいて、地上に出て10日間で死ぬと言われる。ところがこの蝉はもっと長い。

原題は『Day of the Locusts』といって、Locustsは“17年周期の蝉”のこと。北米原産のこの蝉は17年間土に潜って、地上で10日ほど鳴いて死ぬ。ディランは蝉の大合唱を青春の若者をおくる歌声にたとえたようだ。17年間、青春という地中にはいつくばってようやく卒業して、故郷をアバヨというイメージである。

7年にせよ17年にせよ、とにかく長い。それを思うと実は逆なのかもしれない。

地中生活が蝉の人生そのもので、地上生活は「最後の贈り物」かも。卒業証書か昇天旅行券か、よくがんばったねご苦労さんという数日間かもしれない。

自分が暗いトンネルにいると思う人は、地上に出て光を浴びたいと願う。出れば数日間で死ぬとしても出たいだろうか。それなら暗くても安全な地中にいたいと思うだろうか。

もうひとつある。ディランのように「みんなに歌をきかせてやろう」として出てくるのだ。蝉は歌がうまい。歌うのが喜びなのだ。

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うちのアパートに来た蝉は、今朝没していた。夕方公園の木の下に埋葬した。喉を涸らすほど歌ってほっとしているようだった。

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