アートマルシェ神田のシェアオフィスに入居して、まだ3か月しか経っていないNさんが言った。
「ゴーさんたちはどーするんですか?このそばでギャラリーやるんですか?」
Nさん、ごめんなさい。入居したばかりなのにすぐに退去で。ギャラリーのある三和ビルは近々無くなるのだ。
「いやぼくらはこのビルと共に消えてゆくんです。ウワバミみたいなものだから」
「星の王子様ね(笑)」
「?」と思った。ウワバミというのは大きな蛇のことで、自分より大きなものをのみこんで動けないという意味である。にっちもさっちもゆかないという意味だと思っていた。でも星の王子様に出てくるんですね〜『ゾウを飲み込んだウワバミの絵』という話しで。
ひとつお利口になった。しかしウワバミには深い意味がある。
たとえばむつかしい仕事、キツい人間関係を飲み込んでしまう。どれも自分よりでっかい。吐き出すこともできず消化もできず、身動きが取れなくなる。それが大人になることなのだろうか。
あるいは親のでっかい期待を飲み込む。だが親の願う学校に落ち会社にも入れないと、親の期待は良いものだったのに心は腐ってしまう。それが社会に適応するということなのだろうか…
いや待て。こうも考えられる。ウワバミ=蛇とは「原罪」なのである。アダムとイブに出てくる「人を誘惑する動物」である。それが象というでっかい「平和な生き物」を飲み込もうとする。悪と平和の戦いなのだ。
どっちにせよ今思うのは、アートマルシェ神田とは<シェルター>だった。社会の荒波に晒されず、不況からも隔離され、好き勝手なことができた。シェアオフィスのテナントさんにとっても、古いビルだけど家賃は安いし、雰囲気は悪くなかった。
だが今、社会という蛇がぼくらを飲み込んで溶かそうとしている。ぼくらはウワバミに飲み込まれる象なのだ。のっしのっしと、次はどこに避難しようか…