仕事場を早々に引き上げて家路に向かう。だが帰るんじゃない。
夕方4時、これからもうひと仕事の人もいる時間だ。そんな時刻にいいなあ…と言われても、ぼくは自宅に仕事しにゆくのだ。
原稿がなかなか終わらない。あれこれ考えては書く。消す。今回はけっこうその作業をやっている。深堀りが浅いからだ。そりゃわかっているんだが、わかると書けるは違う。準備を怠っているわけじゃない…
ウラウラと原稿のメモを書きながら電車に乗っていた。すると、前の座席に中年のおじさんが座った。ぼくと同じくらいの年頃だ。彼は小さなクラッチバッグから、A4サイズの紙を1枚出して広げた。裏面、つまりぼくの方に向かっている面の文字が見えた。
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改めて彼を見ると50代半ば、黒い髪を七三に分けた真面目そうな人。ひょっとしたら前はメーカー勤務だろうか。たぶん生産管理とか品質管理とか、地味だけど大切な仕事をしっかりやっていた。今はスラックスにセーターにカジュアルシューズ。彼はじっとその紙を見ていた。
ぼくも余り変わらない境遇である。彼の失業手当の方がぼくの稼ぎより多いかもしれない。だが彼もぼくもこの時間に電車に乗って家に帰るけれど、ありがたいことにぼくはまだ仕事がある。
改めて電車の中を見回すと、似たような人びとが他にもいた。今の時代、資格があっても経験があっても、再就職はキツい。若者にも中年にも老年にもみんなキツい。そういえば神社の猫は耳が切れていたな。
この傷だと小さい頃かな。コイツは苛烈な宿命に生まれたが、こうして神社で生き永らえているんだろう。するとコヤツに…
余計なお世話だにゃ。Mind your own business !
と言われちまった(笑)そうだ自分の仕事をしよう。もっとがんばろう。
人懐こいかわいいやつだ。
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