杉浦編集長から、2015年のドクターズマガジン“ドクターの肖像”の総括のお言葉を頂いた。うれしいので八海山を飲もうと思った(^^)
中途入社社員研修で、編集長はマガジンの話しをした。「読んでみたい」という女子社員がいた。バックナンバーを渡した。それは2015年3月号である。以下、編集長からのメールを引用。
「私は今年のラインナップでベストは鳶巣賢一先生だと思いました。『まずはこれを』と出したところ、彼女は同時入社の隣席の男子にも読ませて、二人で仕事中なのに『涙が…』きゃー泣かないでよ、私が泣かしたみたいじゃない?」
悪魔の編集長(笑)。ぼくもベストは鳶巣先生(現都立駒込病院長)と思う。まず出だしが良い。
人生において事を成すーそれは悩みに比例して大きくなる。トンネルの暗さと、抜け出た先の光の眩しさで増幅される。
2節の終わりには「鳶巣青年は暗い青春のトンネルの中で、壁に頭をぶつけ、水たまりに足を入れていた。」と書いたが、医師になるのに8年も回り道をした彼自身の苦悩であると同時に、読者にもどこか共通体験がある。だからじんとくる。
自画自賛したついでに自分の文を勉強しだした。手書きで写すと構成も意図も効果もわかる。小説的なドラマがあり、感情の書き込みもある。それを支える事実や時代背景が上手く挿入されている。うまいぜ。
彼の人となりを表す、最後のくだりを引用しよう。
「その患者とは外来で出会ったんです。既に舌がんと喉頭がん手術の影響で言葉が不明瞭で、涎も垂らす、一見して異様な形相でした。でもとても人間くさくて、茶目っ気たっぷりで憎めない魅力があった。彼からアルコールの匂いがしたんです。酒を飲むんだとその時知りました。
その後2度の手術を一緒に乗り切りました。しかしがんは再発して全身に広がった。死期が近づいていよいよ食事もとれなくなった日、私は『お酒、飲む?』と訊きました。すると彼の目が輝いて、笑って頷いたんです。消灯直前に医員室のデスクの下に隠していた日本酒の八海山をコップに一杯、彼のベッドに持っていきました。彼はひと口なめて、ふぅーっと息をついた。昔のように茶目っ気たっぷりに笑った。隠れていたずらをして喜ぶ子供のように、ふたりで笑い合ったんです」
患者は一瞬、生気を味わった。そして3日後、息を引き取った。
改めて誓ったことある。ぼくが書くべき文は、エモーショナルから組み立てる、そこが勝負だ。「人となりを彫る」だけではなく、「人となりをつくった感情を掘る」のが、真の書き手なのだ。
迷いだらけの人生だが、文と恋だけは迷いがない。編集長、36人目の肖像原稿、待っていてください。鳶巣文を越えるように!
お正月には八海山!(^^)
私もこの「鳶巣文」にヤラれた一人です。
人間のリアルな生き様って、
どんなドラマよりも泣ける。
それも、文字で形にできたからこそ、
他人と、そのドラマを共有できるんだ。
そんな大仕事をやってのける郷さん、
やっぱり永遠の憧れだわ‥‥。
mimoさん、どーもありがとう(^^)人間てまっすぐ生きている人、いませんよね。なんだかんだ曲がってくねってもどってひっくり返って(笑)生きている。自分が何がしたいのか考えて、池の周りをぐるぐる歩いて生きている…そういう人が人間臭くて好きです。