スーパーで現品限りの特売品、あとひとつだけ残っていた。しめたとほくそ笑んで買った。ところがフタのビニールシュリンク包装が硬くて爪で剥がせやしない。キッチン鋏を二度三度入れてようやくとれた。
次はフタ。これがまた固くて開かない。
当方が加齢ゆえ握力が落ちたことはありうる。それにしても固すぎだ。タオル巻いてもだめ。早朝の出張で時間がなくて、ついにマーマレード無しでパンのみで食べて出た。翌日再チャレンジ。やっぱり開かない。フタの側面を鋏の柄でコンコンコン…と叩いた。
すると昭和の風景が蘇ってきた。
昔の瓶には固くて開かないフタが多かった。ジャムだけでなく佃煮や海苔の瓶、蜂蜜やマヨネーズ瓶など、どれも固い。母がよくぼくら兄弟に言った。
「これ、開けて」
腿に挟んでエイヤっと力を入れた。開かない。輪ゴムを付けて思い切りやる。やはり開かない。金槌を持ってきてトントン叩くと、凹みができたけれどようやく開けた。
牛乳瓶はボール紙のフタのヘリを爪で立ててから引っ張った。失敗するとミルクをかぶった。三角錐のテトラパックもよくこぼれた。ビールや醤油、お酢も金属栓だった。ちょっと栓抜き持って来て!と子供はいつも台所に取りに行かされる役目だった。
一方、山本山の丸い海苔缶を開けるのはおもしろかった。刃のついた小さなカッターを缶のヘリをぐるりと走らせて、薄い金属膜を切りとる。見事に丸く切れた。
フタの進化と経済成長には相関関係があるのかもしれない。
経済成長と共に品質だけでなく包装も向上した。こんなマーマレードには最近であったことがない。きっと特売のワケは包装だ。製造部は売れないマーマレードを前にして「味は悪くないのに」と容器包装部に文句を言っただろう。
固いフタに不平を言わず工夫をした昭和ピープル。万事のんびりだった。慌ただしい朝に昭和というフタをトントンと開けた体験でした。