「よく見えるようになったんだから、長生きしてたくさん仕事しなさい」。竹を割ったような物言いをする眼科医は言った。
3ヶ月ほど前、近所の眼科クリニックにかかった時、院長の女医に「あんたは重症の白内障だから早く手術しなさい!」と命令された。専門病院で2ヶ月半の手術待ちの後、片目4-5分の日帰り手術で、素晴らしく見えるようになった。今朝の検査でも1.2出た。
「視力が落ち着くまでもう少しかかるから、それから眼鏡を作るといいわ」
いわゆる病診連携。普段は近所のかかりつけ医、重い時は高度専門医療、治れば近所に戻る。治らなければお陀仏だ。幸か不幸か戻ってきた。目薬の説明をした後に言われたのが「たくさん仕事せい」だった。
そうだな。仕事しなきゃ。
さっそくある作家を集中読書しだした。物故した精神分析医である。そして仕事場に出てウエブサイトの修正や試作をした。中村さんがやってきてイベントのDM(チラシ)ができたと持ってきた。
神田川を飛ぶみやこどりなのだから神田川で撮ろう。風が吹いているんで撮影に苦労した。秋の寂しい風に揺られる我が身のようだ。
せっかくの丸いDM、これを模してウインドウディスプレイを飾る案内もつくった。
やがて日が暮れた。目がいいので柳の向こうに三日月がくっきり見えた。見えるにようなったんだからする仕事ってなんだろう?
やっぱり人を書くことかな。
毛穴やハイライトやほうれい線は良く見えるようになった。それより今は人の悲しみや苦しみがよく見える。血を流す心を持つ人が見える。どういう心ゆえに流れるのかもわかる。そんな自分もわかる。
人の苦しみを楽しく書けるか。苦しみを書いて笑わせられるか。それがぼくに残された挑戦かもしれない。書けたら女医に読ませよう。