ミニアルバム『ギフト』には贈りものがいっぱい詰まっている。母であること、現実を受け容れること、泣くこと、笑うこと、そして勇気を出せばニコニコをもらえることー
シンガーソングライターのMIMO/酒井美百樹さんが発表した3曲入りのマキシシングル。ダウン症の子を持つ母として、誰よりも母である意味を考えた。誰よりも母であることを悩んだ。そして歌をつくり歌うことで、誰よりも母であることを喜んだ。ギフトとはリスナーへだけじゃない、シンガー自身へも。
人間として、またシンガーとしての成長を感じさせる3曲。収録順は『ギフト』『蝉しぐれ』『きみはキラキラダイヤモンド』だが、ぼくは蝉しぐれ、ギフト、ダイヤモンドの順に聴いた。
蝉しぐれは、時雨れる蝉の合唱の合間に差し込んだ、夕暮れ光のような曲だ。親であることを始めて意識したのは、障がいをもつ自分の子の存在。受け止めたい、受け止めなきゃ、と歌い上げる。美しい歌声にはブルースがある。哀愁がある。
次の曲はギフトだ。「この子はゆっくり歩むでしょう」と医師から言われて泣いて泣いて、病いをもたせて生んだことをMIMOさんは謝る。ここまでは哀しいバラード。
ふと思い出した光景がある。ぼくは医師のインタビューの仕事で、湘南のある病院を訪ねるためJR駅前のバス停にいた。そこに60代とおぼしき母と、三十代の娘がやってきた。ふたりは男性を連れていた。彼女の弟なのだろうか…ダウン症なのだ。娘はよたよたする弟をごく自然に、だめよこっちと手を取って支えた。なあに?と話しかけた。
とても自然な光景なのに、息をのんだ自分がいた。
MIMOさんも誰に謝ったんだろう?それで気づいた。この子はギフトなのだ。謝るのではなく、ありがとうと言うべきだった。後半は勇気溢れるバラードになる。
シンガーは反転する力を見せた。それは3曲目のダイヤモンド。同じ病気をもつ親子を支援するNPO団体のためにつくった曲は、親も子も歌えるポップスになった。プロフェッショナルである。
同時に障がいをもつ子の母から、ひとりの愛する子をもつ母へ、最初の子離れをしたのだろう。もっとも世の母親の子思いは病気のようなものだから、“ママこそ病気”ということばには感謝すべきだろう。
MIMOさんのファルセットは頬をなでられる感じで好き。しかしじっと聴いていると、どの曲にもバックコーラスが聴こえてくる。聴こえませんか?ニコニコした目の奥からの声が…